同期の君とその婚約者へ ページ30
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「硝子、Aの体、バラしてよ」
Aの体を機能してない高専に運んで寝せた後
気分転換も兼ねて煙草を吸いに来た私に対して
五条が最初にはなった言葉がそれだった
「いいけど、いいの？」
「良いでしょ。硝子にバラされた方が。
あいつも本望なんじゃない？
自分の体がきっかけで今後色んな面で活かされる方が」
「そうか」
淡々と交わされる会話の内容が
人の体のやり取りなんだから頭が正気じゃないよな
「他の誰かに利用されるくらいなら
硝子の手でバラされた方がいい」
けど、その一言こそが五条の本音だとすぐに気づいた
あぁ、割と心にキてるな
そう思ったがそんな野暮なことは口にしない
「わかった」
「助かるよ」
じゃあ僕Aに挨拶してくるね
なんて笑顔で言う五条に胸は締め付けられた
＿＿＿＿君はいつから誤魔化せるようになったんだ？
夏油が離反した時、取り乱してた五条がいたのは知ってる
あんなに感情的だった君が
今度は最愛の婚約者を失ったから
割と心配してたんだぞ
「私は君のそのいつも通りがかえって怖いよ、五条」
……まぁ、夏油が死んだ日も普通だったけどな
そんなことを考えながら手術室に戻ると
五条が彼女に話しかけているところだった
「じゃあね、A。
僕は先に帰るけどお前も後で来れるならおいで」
何を言ってんだと思いつつも
私はそれ以上先には進めなかった
「暫く会えなくなるね、さよならだね」
きっと五条はこの扉の向こうでAの頬を撫でている
離れたくないという気持ちが声から伝わった
「今まで本当にありがとうA。愛してるよ」
五条がAを本気で愛していたのは周知だった
やっと五条も収まると思ったのに
最後の最後でこんな仕打ちは
ひょっとして神なんてものは存在しないかと思う程だった
残酷にも程がある
人の死には慣れてきたつもりだったが
よく知っている人物の死は流石に堪えるものがある
A、君はこの地獄のような世界でも
幸せに生きてきた方だと思うよ
君も五条も「幸せ」と「愛してる」を
君の死ぬ間際まで言わなかった事に気がついてたのは私だけかな
夏油に遠慮してたんだろう？
今更だって思うが死んだ人と生きた人の流れる時間は違う
死んだ人はそこで時が止まり世界が変わるが
生きた人は時は動き続ける
だから気にしなくてよかったんだ
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