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いつまでも嫁に貰ってくれないから拗ねたのかもしれない
「……はぁー」
馬鹿げたタラレバを考えては白無垢に触れて
「A……」
Aを無意識に呟いていた
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「化野」
「はい大奥様」
「Aさんは死体解剖された後に返されるんですって?」
五条家の離には酷くやつれた顔の五条の前当主夫人が
かつて自分と夫である当主を支えた家令に問いかけていた
「はい。坊ちゃんがそのように決めたようで」
「……わざわざ解剖しなくたっていいでしょうに」
いつの日か飼うようになった2匹の猫は
彼女の足元でスヤスヤと寝息を立てている
「その後Aさんはどうなるの?」
「……嫁入り前だった故に真那井家が預かるとのことです」
「…それを何とかうちで預かれないの?」
「……はぁ……」
困惑する家令に対して前当主夫人は苛立っているようだ
「Aさんは悟とこの家を10年以上も支えてくれたわ。
苗字が違っても、戸籍上五条の人間でなくても、
法律上夫婦と認められなくても、
あの子は十分に五条家の妻だったのよ」
ぎゅ、と組んでいた腕を握りしめながら
五条の母は呟く
「最期くらい良いじゃない…。
五条家の人間として眠らせても。
それを否定する人間なんてこの屋敷にいないわ」
その言葉に化野は静かに返した
「仰る通りです。
明日の朝、真那井家に相談してみましょう」
「お願いね。
何としてでもAさんの骨をもらって。
分骨でもいいわ。
とにかくAさんを歴代当主夫人のお墓に入れるのよ」
はぁ、と母の深いため息が出る
「悟はどう?」
「至っていつもと変わりません」
「……どうしてあの子はあぁなのかしら。
愛した人が死んだのに涙ひとつ見せないなんて」
可愛がった義理の娘の死からくる悔しさは
やがて実の息子にまで矛先が向かった
「坊ちゃんもお辛いとは思います。
しかしA様が亡くなったからと
立ち止まる訳にはいかないのですよ」
「Aさんもそうだけど2人してどうかしてるわ。
当主として、呪術師として、そんなこと考えずに
今目の前の自分の気持ちだけで動けばいいのに」
「……奥様も本当はお分かりでしょう。
私達は御三家の人間であることを」
その一言に前当主夫人は黙り込んでしまう
離の一部屋だけ明かりの灯った部屋に
前当主夫人と家令の影が2つ
あとは静かに冬の冷たい風が吹く音が聞こえてくるだけだった
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