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【旦那様、私こそあの日旦那様にご迷惑をお掛けしました】
私の声を借りて、伊織さんはそう羂索に話した
「構わないよ伊織……私は君を失って初めて
君がどれだけ辛かったか知ったんだ」
心做しか羂索は
まるで壊れ物に触れるような、そんな優しい声色になっていた
___大好きで大好きで仕方なかった
そばにいるだけで幸せだった
その笑顔が自分にむく度に心臓が高鳴った
その手が触れる度に嬉しかった
そんな思いが苦しいほどに溢れ出てくる
でも自分の思いと裏腹に夫は側室との間に子供を設けた
とても惨めに思えた
その思いは増幅していくばかりだった
そして御前試合についに呼ばれなくなった
もう私は要らないんだ
そう思ったら耐えられなかった
だから私はあの日、あの蔵で首を吊った
伊織さんが私にそれを教えてくれるかのように
記憶が流れてきて苦しくて仕方なかった
堕神となり暗闇を彷徨い続けても
醜い姿に変えられても
さまざまな子孫の願いを聞いている時も
その思い出を忘れることは出来なかった
本当に好きで仕方がなかった
有り得ないと思っていた再会が出来たのに
こんな姿を晒してしまうなんて……
伊織さんはそんな事を思って泣いていた
「旦那様にこんな姿を見せるくらいなら…死んでしまいたい」
私の口から出た言葉に羂索は驚いていた
「伊織……」
「お願い私を見ないで!!!」
伊織さんの切ない叫び声が私から出る
そんな声を上げるほど羂索が好きだったのね
「伊織、どんな姿だろうと君は綺麗だよ」
「っ……」
「君にずっと伝えたかった。
私は君を誰よりも大切に思っていたよ」
「大嘘つき!!!今も私の子孫に手を出していたでしょう!!」
「君に似すぎていたからね。
君の末裔で君によく似ていたから__
いや、それも君からしたら許せないか」
「次から次から現れる側室を見る度に
私は腸が煮えくり返る思いでした」
「その想いが強大なものになって
堕神の中でも最も強いものになるとはね」
羂索の言葉に伊織さんは益々辛くなったのか
私は悲しくなって泣き崩れてしまう
「ただ旦那様の1番になりたかっただけなのに」
__あぁ、私がこの人に似てる理由わかる気がする
私も悟さんにそう思っていた時期がある
結果的に誰にも浮気なんてしてなかったけど
私も伊織さんと同じことを思ってた
好きじゃないと言い聞かせ
本当の気持ちを心の奥底にしまい込んで
ただ当主夫人であり続けようとした
私しかなれない立ち位置だから
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