Amnesia《五条悟ver》 ページ21
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「お帰りなさい悟さん。
貴方の好きな上生菓子を買ってきたわ」
僕が会合や何らかの理由で上層部と絡むことがあると
Aは決まって老舗のお菓子を買って待っていてくれた
って言っても京都にいる時だけね
東京にいる時は「好きに買うでしょ」なんて言って買わないの
その代わり美味しい手料理を作ってくれる
「ついこの間行った時は紫陽花だったのにもう桔梗になってたの」
「へぇ美味しそうじゃん」
「ちょっと、もう少しこの作りを見てよ」
多分Aは
花の形をした上生菓子を見るのが好きだったと思う
花が好きな子だったしね
「まったく、情緒がないんだから」
「いいじゃんちゃんと見てるんだし。
ってか毎年見てるじゃん」
僕はいつもそう言って呆れるAの隣でそれを食べてた
今思えばAがそれを食べるところは
1度として見たことがなかった
「若奥様は坊ちゃんの為だけに買われていましたから」
後になって常磐がそれを教えてくれた
「疲れてる坊ちゃんのために買ってきたものだから、と
若奥様は手を付けなかったんですよ」
変なところで気を利かせるなっつの
「私はもう食べたから、悟さんが全部食べて」
なんていっつも言っていたのが嘘だと初めて知った
きっとこれだけじゃなくて
他のところでもそうしてたんだろうと思う
「お前は自分の人生をちゃんと歩いてたわけ?A」
当主夫人に囚われて
自分を後回しにしたんじゃないかと思った
「何これ美味いじゃん」
「あら本当?」
「うん、どうしたのこれ」
「たまたま安かったから買ったのよ。
貴方が好きならまた買ってくるわね。
その残りは全部悟さんのだから食べていいわよ」
「え?Aは?」
「私もう自分の分食べちゃった」
そう言ってお前は手を付けないお菓子が多かったんだね
お前だって甘いものが好きだったのに
「常磐」
「はい坊ちゃん」
「Aは僕といて幸せだったと思う?」
Aにとって御三家に嫁ぐことは
きっと何よりも心に負担があったと思う
ましてや僕みたいに風当たりが強い人間と結婚なんて
楽しい事より辛いことの方が多かっただろうね
「少なくともこの1年は幸せだったのではないでしょうか」
「たった1年!?」
「……ご自分が何をされてきたかお忘れのようですね」
そうだよね、僕たちずっと仲悪かったしね
「ただ、この10年の間坊ちゃんが屋敷をあけている時に
切り盛りをされていた若奥様が泣いた所は
見たことがありません」
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