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私だって頑張れる。…彼女と一緒なら。 ページ19

「…凄い匂い。どうしたの、これ。」
「……。」
誰もいない私の家のキッチンで立ち尽くしていると、
後ろからひなちゃんの声が聞こえた。
私の近くに来て、コンロの火を止めてから
そう訊くまでに十秒も掛からなかっただろう。

「お鍋の中が焦げちゃってる。」
「…麻婆豆腐を作ってたら、間違えちゃったみたいで…。」
「また難しいのを。何で作ろうと思ったの?」
おずおずと、質問に答える。
「だって、その…。
今日で私とひなちゃんが付き合って三年だから、
ひなちゃんの好きな麻婆豆腐を作ってあげようって思って…。」
荷物を降ろした音がした後に、ぎゅっと抱き締められる。
「私の為に頑張ってくれたんだね。
ありがとう、凜。」
極めて優しい口調で、彼女は言う。
「でも、ごめんね。
こんなの食べられないよね。」
言いながら鍋の中身を捨てようとすると。
「あ、待って。私まだ食べてないよ。」
「…焦がしちゃってるんだよ?」
「良いの。凜が作ってくれたから。」
彼女はそう言いながら、鞄から空の弁当箱とお箸を取り出した。
崩れた麻婆豆腐をお玉で掬い、弁当箱に流し込むと
お箸でそれをそっと摘んで口に入れた。
「……美味しい。
ちょっと苦いけど、大人っぽい味がする。
凜、上手に出来てるじゃない。」
意外な反応を受け、初めて彼女の方を見る。
彼女が中身の残った弁当箱をテーブルに置くと、こう提案してきた。
「ねえ、麻婆豆腐だけじゃ寂しいからもう一品作らない?
私も手伝うから。」
「え、あ…。」
「前に凜、炒飯が好きって言ってたでしょ?
麻婆豆腐にも合うし、ね?
記念日にはそれぞれの好きなものを食べたいの。」
「…うん、頑張ってみる。」
二人で一緒に、一つのものを作るんだ。
そう思うとどこか嬉しくなった。

「ほら、猫の手忘れてる。
それに押し引きじゃなくて上から落として後ろに引くの。」
包丁を持った手を上から握られ、何なら体も密着している。
「ちゃんと聞いてる?」
「あ、うん…。聞いてる。」
意識を何とか繋ぎ止め、彼女の指導を受けた。
「今度は上手く出来たね。…凜?」
「は、刃物怖い…。」
「私が支えてたでしょ。」
やり取りの末に、炒飯が完成した。
リビングのテーブルに二品を並べて食べてみる。
「ふふ、一緒に作ったら美味しいね。
今度また違うのを練習しよっか。」
「…うん。」
ひなちゃん。私、ひなちゃんの為に頑張るね。

私とひなちゃんが一緒に住んだら、毎日がこんな風になるのかな。
いつか、そうなると良いな。

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設定タグ:百合 , 短編 , オリジナル   
作品ジャンル:恋愛, オリジナル作品
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作者名:螢羅(K-Ra) | 作者ホームページ:なし  
作成日時:2018年12月7日 19時

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