Episode13 -3 ページ35
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こつんこつん、微かな音を耳が敏感に拾う。
私は音を立てないようにそっと窓を開けた。
「お待たせ、A。約束通り攫いに来た」
開いた窓から風が舞い込む。
夜の庭に佇む彼は、夜と同じ色をした瞳で私を映していた。
これが何でもない再会だったらどれほどよかっただろうか。
考えても意味のない幻想を押し殺す。
「…っ潤くん」
姿を見ただけで涙ぐみそうになった。
唇を引き結んで涙をひっこめる。
「俺に攫われてくれるか、お嬢様」
「…っ、もちろん！」
力強く頷けば潤くんが不敵に笑う。
王子様にはちょっと乱暴で、だけど誰よりも格好の良い表情で。
「し。見つからないうちに出る。こい」
人差し指を唇の前に立てた潤くんはその手を私へと伸ばす。
大きな掌が私を誘うように広げられる。
部屋の中を一度だけ振り返った。
私を閉じ込めていた鳥かご。
ずっと、窮屈だなどとは思わなかったはずの場所。
まさかこんな形で別れを告げることになろうとは思ってもいなかった。
「さよなら」
誰にでもなく呟いて、私は潤くんの手を取った。
ぎゅっと大きな手に包まれる。
好きな人の手。
この温もりさえあれば、なんだってできるような気がした。
「よし、飛べ！」
「うん！」
床を踏みしめて蹴り上げる。
潤くんの手が私の身体を掴んでふわりと持ち上げた。
庭へと身体が下りる。
スニーカーの底が土をしっかりと踏みしめた。
ドキンドキンと心臓が音を立てている。
窓から逃げ出したのは当然初めてだ。
「よくやった」
不敵に笑った潤くんが私の頭を撫でる。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
