Episode11 -3 ページ23
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まさか翔さんが、私の逸脱した行動を羨ましいというなんて。
翔さんも窮屈だと思っているんだろうか。
窮屈から逃げ出そうとすることを、罪だと言ったりはしないのだろうか。
「どうしたんですかAさん、目を丸くして」
「いえ…怒ったりしないんですね」
「当たり前じゃないですか。Aさん相手に怒ったりしませんよ」
知っている。
彼が私を否定したりしないことを。
翔さんは私に少し甘すぎる。
「翔さんは、私に甘すぎだと思いますよ。これじゃあ私成長できません」
冗談みたいに言ったら。
「いいんですよ。婚約者に甘いのは普通のことですから……たぶんね」
お道化るように返事をした翔さんが私の顔から視線を外す様に遠くを見た。
視線の先にはグランドピアノが置かれている。
「もうあんまり時間がないので手短に」
違った。
翔さんの視線の先には雅紀の姿があった。
こちらにまっすぐ歩いてきている。
翔さんの言うように、タイムアップのようだ。
「俺はAさんの味方ですから。話聞かせてくれてありがとうございます。俺に出来ることはないか考えてみますね」
「そんな。翔さんにはご迷惑なだけじゃ…」
だって私のわがままは、翔さんとの婚約を取り消さなければ叶わない。
「……大丈夫です。難しいとは思いますが……なんといっても俺は婚約者に甘いので。ね、Aさん」
泣きたくなったのは優しさでも甘さでもなくて。
いつでもままならない私を肯定してくれる翔さんその人の温もりだった。
雅紀がもうすぐそこまで来ているから泣くことはできない。
ぐっと喉を締めて涙を飲み込む。
「頑張ってください、Aさん。多少の無理くらい、君ならきっと大丈夫です」
最後に翔さんは私の手首をそっと撫でた。
無理すんな、と言った潤くんとは違う。
無理をしても大丈夫、それは翔さんだから言える言葉。
無理をすることの意味を知っていて、それを乗り越える必要性を知っている人だからこそ。
私は一つ頷いて、雅紀の方へ足を踏み出した。
「近いうちに本邸にお邪魔しますね」
背中に翔さんの声が聞こえて振り返る。
翔さんはこぶしを握ってガッツポーズを作るとひらひらと手を振った。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
