Episode11 多少の無理 ページ21
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本邸に閉じ込められてから一週間。
久々にやってきた外出の機会はますます気分を鬱々とさせた。
「Aちゃん、顔、可愛くねぇぞ」
「余計なお世話だよ智くん」
ミラー越しに智くんが意地悪な顔してる。
わかっているでしょうに。
「お嬢様、練習の方は完璧ですか」
「大丈夫よ。手も痛くないし」
包帯が巻かれているはずの自分の手を見下ろす。
包帯はすべてドレスの袖に隠されていて外からは見えない。
怪我を言い訳にするわけにはいかない、ということだろう。
今日雅紀が持ってきたドレスは落ち着いたワインレッドのフレアドレスで、長袖の先もフレアで広がっていた。
「ピアノを弾くとき邪魔にはなりませんね？」
「フレア袖のこと？大丈夫よ、慣れてるから」
すべては怪我をしていることを隠すため、多少の不便は仕方ない。
一番の問題は翔さんにバレないかどうかだけど…ばれてしまったらその時は仕方ない。
学校で転んだとか言い訳をしておこう。
ここの所のあれこれを包み隠さず翔さんに話すのはさすがに気恥ずかしい。
特にレッスンさぼって家を抜け出しましたなんて言ったら翔さんはひっくり返りそうだ。
と、思っていたんだけど。
「Aさん、手怪我してません？」
「え」
共通の知り合いであるとある社長夫妻の結婚記念日というのが今日のパーティーの名目だった。
だからこそ私と翔さんはあくまで婚約している二人として呼ばれている。
会場の入り口で翔さんと合流してから翔さんのエスコートで会場へ入ろうと腕に手を添えるなり翔さんがそう言いだすものだから私はつい声を出して立ち止まった。
「あたりですか？」
私を見下ろす翔さんはどこか嬉しそうだ。
やっぱり、翔さんに隠し事はできそうにない。
「…あたりです。ちょっと怪我しちゃって」
「今日ってピアノの披露がありましたよね？大丈夫ですか？」
心配そうに翔さんの眉が下がる。
「大丈夫です。今日だけは絶対に引き下がるわけにはいかないので」
「引き下がる……？」
「あ…いえ、何でもないです…」
ついお父様とのやり取りが浮かんで口を滑らせてしまった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
