Episode10 信じて待ってろ ページ14
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週末。
私は智くんの運転する車の中にいた。
向かう先は上条本家本邸。
都心の一等地、しかも海に近い場所にある本邸に行くのは私もずいぶん久々だった。
それこそ高校に入学して今の家に移ってからというもの数回しかその敷地には足を踏み入れていない。
お父様に会うのもずいぶん久々だ。
それにしても。
「よくこんなに早くお父様のアポが取れたわね」
「ええ。お嬢様の将来に関わることだと申し上げましたら、二つ返事でした」
前の席に座った雅紀がこちらを振り向きながら言う。
まさか、私の将来に関わるから話を聞いてくれるって？あのお父様が？
そんなまさか。
窓の外に目をやった。
車は湾岸エリアに入ったところ。
本邸がある辺りまではバイカーに人気の海沿いの道が走っている。
潤くんと一緒にこの道を走れたら素敵かもしれないのに、と思っても、今のままではただの道。
「ねぇ智くん、少しだけ遠回りしてよ」
「お？おぉ、いいけど…」
「お嬢様」
「考え事」
雅紀の怪訝そうな声に一言そう返して、私は窓の外を流れる海沿いのシティビューから目を逸らした。
上条家の本邸は仰々しい白亜の壁で囲まれている。
正門が黒々と輝く漆黒。
外からでは中の様子は窺い知れない。
まるで壁に囲まれた小さな世界のようだ。
三年前まで、私はこの場所に暮らしていたのに。
今改めて見るとその外観は異質そのものだ。
何者をも寄せ付けまいとするような、そんなお屋敷。
正門の前で一度止まった車は重たそうに開いていく門の隙間を潜り抜ける。
西洋式の外観とは相反する日本庭園が本邸をぐるりと囲んでいるけれど、変わらず綺麗に整理されていた。
平家造の四角い本邸の前で車が止まる。
「どうぞ、お嬢様」
「…ええ」
たん、と靴底が石造りの床を叩く。
「じゃあ車停めてくるから」
「智、停めたら応接間で待っててくださいね」
「はいよ」
すうと車が行ってしまうと背中を風が撫でる。
一つ、深呼吸をして。
雅紀が開けた扉をくぐった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
