Episode8 厄介な恋 ページ1
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重たい目を開く。
「A？」
低い声がどこか慌てたように私の名前を呼んだ。
「ぁ…れ……？」
私……。
「目が覚めたか？よかった」
肺の息を全部吐き出すんじゃないかってくらい深くため息をついたのは潤くんだった。
少しずつ覚醒する頭が状況を飲み込み始める。
ここ、私の部屋のベッドだ。
でも…。
「どうして…潤くん…？」
「あぁ、相葉さんに許しをもらってお前についてた」
傍の椅子に座りなおしながら潤くんがそういう。
あの雅紀が許可をしたなんて、それは驚きだ。
「雅紀が許してくれたの？」
「そう。お前を助けてくれてありがとうって言われたよ……そもそも俺のせいだけど」
自虐するみたいに潤くんは言う。
その苦い顔を何とかしたくて、私は重たい手を伸ば…そうとして、走った痛みに少しだけ顔をしかめる。
「どうした？」
「なんでもない…ちょっと手を痛めただけ…」
「あぁ、そうらしいな。……悪いな、ピアノを弾く大事な手なんだろ」
潤くんの手が私の手を布団の中で見つけ出して優しく擦る。
くすぐったいような恥ずかしいような、そんな心地になって私は口元を隠すみたいに少しだけ掛け布団を引き上げた。
それから、首を振る。
「潤くんのせいじゃ、ない」
「……ありがとな」
弱く笑って、潤くんは私の頭を撫でた。
痛めた右手から潤くんの手が離れてしまったことがちょっぴり寂しい。
じっと潤くんの顔を見つめていたら潤くんの目がふいに彷徨う。
「お前……あんまそういう顔すんなよ」
「そんな顔…？」
「そう。その…可愛い顔」
急に潤くんの顔が近づいてきた。
驚いて固まっていたら、ちゅっと額に柔らかいものが触れる。
「熱とかはなさそうだな…」
「…っ、っ」
声にならない声で固まる私に潤くんが唇の端をあげる。
「悪い…ちょっと我慢できなかった」
「がま、ん…て…」
ぎゅうと布団を握りしめながら私は声を絞り出す。
そんな私を見下ろす潤くんが手を伸ばして、私の額に触れた場所を拭っていった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年12月10日 17時
