【銀魂×文スト】鳥が死んだ日

30.5: 愛するお前よ【高杉晋助】 ページ34

ーー 高杉晋助サイドーー

松陽『ありがとう』

そう言った直後、松陽先生の首は飛んだ

俺は叫んだ

叫んで、泣いて、先生の…松陽の名を呼んだ

何度も、何度も、何度も

松陽の首に刀を向ける銀時に向かって止めてくれと叫んだ

だが、その願いは届かなかった

A『さよなら、皆』

そう言った直後、Aは崖から飛び降りた

俺は叫んだ

叫んで、喚いて、彼奴の…Aの名を呼んだ

何度も、何度も、何度も

死んでくれるなと愛しい女の名を呼んだ

だが、彼奴には…Aには何も届かなった

失ったものの大きさは失くして初めて気付くと知った

手から零れ落ちていったものはもう二度と手に取る事が出来ないものだった

そして、それから…息をつく暇もないまま俺達の日常は変わっていった

だが其れは…幕府による廃刀令の施工から攘夷戦争の終わりが見え始めたその時から分かり切った事だった

俺達は…いや、俺は負けたのだ

敬愛する師も愛する女も友の心も…何一つ守れずに

だからだろうか

俺達は志の違いから袂を別れた

俺達は此の痛みをお互いに知りながらも互いの志を理解し合う事が出来なかった

俺達の縁を繋いでくれた者達への償いの為に…其々が其々の道を歩む為に俺達は袂を別れた

銀時は先生の教えを守る為に

ヅラは己が信じた未来を作る為に

だが、甘ぇ

正直、甘すぎやしねぇかと笑いが出ちまった

此の世界をどうこうすると奴らは言うが、どうこうするも何もねぇ

この腐った世界は既にもう手遅れだ

あゝそうだ

此の世界は手遅れなんだよ

俺の閉じたこの左目には未だ焼き付いてらァ

あの頃写した憧憬(どうけい)も絆も志も憎しみも…

俺は何一つ忘れやしねぇさ

先生の首が飛んでゆく情景も、Aが死んだあの曇天の日も…

高杉「俺は何一つ忘れやしねェ。…だから壊してやるよ」

俺の日常を奪った奴らを

先生の生き様を否定した奴らを

Aの全てを壊した奴らを

俺が全部壊してやらァ

高杉「…A」

目を閉じ、そっと彼奴の名を呼んでみる

『さよなら、皆』

だが、俺の耳に返ってきたのは今にも消えてしまいそうな彼奴の声で…

俺の瞼(まぶた)に映るのは彼奴の泣き顔で…

俺はまた唇を噛み締めた

高杉「なァ、A…」

てめぇの仇はうってやるから…

てめぇの不安は全部取っ払ってやるから…

だから、だから…愛するお前よ

俺の目に焼き付いた最後のお前よ

どうか、泣いてくれるな

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