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「…久々知、このことは誰にも言わないから

久々知は私を襲った者を倒した。……いいわね?」



そう、私は婚約者より久々知を選んだのだった
彼の耳元でそう囁けば、かれは小さく頷いた



「先輩…」



「私は、何も知らないし、見ていない、それに感じていない」



そう言って、出て行こうとすれば腕を本気で掴まれた
半端宙に浮くようにして抱き締められる



「ふざけるなよ…」




低く、怒っている声
それは明らかに彼から聞こえてくるものだ



「………ぇ」




胸元が急に熱くなって、息がうまくできない
どうして、なんで



生理的に溢れる涙を拭うことも出来ないまま、彼に凭れかかるようにして私は崩れ落ちた
胸元には、かれの刺したであろう忍び刀が
桃色の装束は、まるで椿のような真紅に染まっている



「先輩、酷いですよ…一人で無かったことにするなんて
僕のこともなかったことにするつもりでしょう…?」



そう、そのつもりだった
その澄んだ黒曜石の瞳に胸内を全て見透かされているようだ



あぁ、目の前が黒くなってきた
思考もまるで霧がかかったかのようだ



いよいよ、目も開けれなくなった
最後に見たのは歪な笑みを浮かべた久々知だ



なんとかギリギリで、意識を保てているが
もうそれも終わりだろう
そうなると、もう痛みは感じない



やりたいこと言いたいこと、考えることは沢山あったけれど
やっぱり久々知のことが一番に出てきた



どうか、彼が後を追いませんように


どうか、私に縛られませんように



どうか…幸せになって




「し、あ………に…って」



日の傾いた夕方

一人の少女が息を引き取った
その側にいる少年は、少女を静かに見下ろしていた



「一緒に逝ってはあげませんよ。これは、先輩への罰です
…あぁ、でも、また置いて行かれてしまいましたね」



少年は一筋の涙をこぼすと
部屋を元通りにしてしまった



返り血など見る影もなく、愛憎の起こした悲劇など見えないように



月が見え始めた頃、同室の彼が帰ってきた



「へーすけ、調子悪かったんだろ?大丈夫か」



彼は、いつも通り優しく微笑んだ



「うん、大丈夫だよ」



いつも通りがそこにはあった
しかし、そこに彼女はいない


だから、彼女の願いは叶わない
彼は、彼女が居なければ幸せになれないし、なる気もないのだから
そして、彼が忍びとしての人生の最後に彼女のことを思い出し、言うのだろう


「幸せになりに来たよ」と。

う→←つ



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奈桜 - こういうのって凄く好きです! (2017年8月5日 20時) (レス) id: 31f66fea9b (このIDを非表示/違反報告)
なつき(プロフ) - 文章の書き方や話の起承転結が分かりやすくてとても読みやすかったです。面白くて一気に読んじゃいましたww (2016年7月12日 7時) (レス) id: 2afd7876b1 (このIDを非表示/違反報告)
流琉 - 元エオです。名前変えました!この小説、何回読んでも面白いです……! (2016年4月6日 10時) (レス) id: 826410c70b (このIDを非表示/違反報告)
ふりかけカスタード - ヤンデレ最高だぞ…!!!凄くドキドキしました! (2016年4月2日 17時) (レス) id: 6cb576d6d9 (このIDを非表示/違反報告)
荊姫 - エオさん» ありがとうございます! (2016年1月10日 0時) (レス) id: 29760536d5 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:荊姫 | 作成日時:2015年9月26日 16時

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