ギブソンに口付けを (ページ4)

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Track 4 ページ4

レコーディング初日、仕事で要するであろう連絡先をSTEELOのメンバー全員と交換した私だが、今私に矢鱈と軟派なメールを寄越したこの男は一体どうしたというのだろうか。

　記憶に新しい剛さんの印象は、無口、怖そう、スウィープ(奏法)。これらはメディアで見る彼のまま、良く言えばクール、また端正な顔立ちも相俟り、ボーカルの晴さんとファンの人気を二分しているとも小耳に挟んだ。ギタリストというポジションに相応しい方だな、と一人納得したものだ。

　しかし、ハニーとは何ぞや。加えて、遊びに来るつもりなのか。もはや突っ込みどころしか見つからないメールについ言葉を失う。Aどうしたんだよ、と丈が顔を覗き込んてくるが、彼が当然のように学校をさぼっている事実より信じ難い。

「剛さんが遊びに来たいって。」
「まじで！？いいんじゃん。」

　A食われないようにしろよ、と他人事のようにけらけらと笑う丈の反応は想定内。思い返せば、此奴はベーシストにも関わらず、STEELOでは剛さんのファンだの話していた。どのみち持て成すのは私である筈だが、心なしか丈の猫目が輝いている。

　実際、夜であれば空いているし断る理由も特にない。寧ろワンバースのミックスダウンに取り掛かった現在彼の意見を聞くのも好都合な訳だが、何を悩む事があるのかと聞かれれば、言っちゃ悪いが不気味なあのメール。
　他人の腹の内なぞ理解する方が困難であり探る気も到底ないが、何となくむずむずするのは人間の性だ。

　返信は後回しで良かろう、一旦思考を中断した私は作業に戻る為スタジオへと歩を進めた。