Track 3 ページ3
「感触が良かったみたいだね？」
俯きながらもそう放つ店長に、曖昧な笑みと相槌を返す。彼がそう問うて来るのも当然といえば当然、私がオープンマイク、つまるところセッションイベントを行っているこのライブハウスに顔を出すのは、決まって腕の良いミュージシャンに出会った日。
モヒートを片手にステージに目を向ければ、自身と同年代ないしそれ以下であろう年若い男が声を張り上げている。
Aちゃん行って来なよ、と視線をくれた店長に頷いた私は、ひょいと壇上に上がるなり背負っていたギターを構えた。
沸き立つフロアを一睨すれば、ボーカルの男が奏でるメロディーに合わせ、愛用のギブソン・ルシールを掻き鳴らす。
既に固くなった左手の指先も、シールドに足元を絡めキンと鳴るノイズも、ステージから見下ろすこの景色も、私にとって最上級の快楽であって。
無心でギターを奏でる私をじっ、と見やり、小さく笑った一人の男に気付く事はなかった。
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「しっかし、ビビったよね。」
Aちゃんだっけ、と続けた智也は、俺達STEELOのベーシスト兼リーダー。新曲を担ってくれるらしいエンジニアの高谷Aに出会ってからというもの、ずっとこの調子である。
確かに彼女との出会いは俺にしてみても衝撃的で。あの日の夜、偶然にライブハウスで目の当たりにした彼女のギタープレイもまた、プロとして活動する俺を愉しませるに充分な腕前だった。
「ごぉ〜。」
楽屋の隅から随分と間延びした声色で俺を呼ぶパツキン……否、ドラマーの浩太を向く。因みに、俺は剛(ごう)だ。決して『ごぉ』ではない。
「……あんだよ。」
「ほ〜ら、冷たい！」
態とらしくボーカルの晴に泣き付く浩太に苦笑を施した俺は、不意に携帯を手にした。
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受信者: A
件名: Non Title
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ハニー♡
水曜遊び行ってい〜？
剛
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作者名：Niar | 作成日時：2016年11月22日 0時
