ギブソンに口付けを (ページ2)

今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:1,532 hit

Track 2 ページ2

「やっぱバンドマンってチャレえ！」
「……丈も他人の事言えないでしょ。」

　丈の発言は強ち間違ってはいないものの、そんな彼もまたインディーながらバンドマンであり、俗に言うグルーピー、つまりファンを連れ込むのも彼の日常。両親こそ不在ながら、仮にも実家であるこの家であんなことやこんなこと、ドラ⚫もんのOPじゃあるまい。

　そうして今日訪れたSTEELOのメンバー四人もまた、最初の丁重な態度は何処へやら、やや私に心を開いたかと思いきや早々肩に腕を回して来たり、先刻丈がチャラいと表した通り、想定内の女たらしっぷりを披露してくれた訳だが。

　冷蔵庫から取り出したビールのプルタブを開ければ、ぐび、と音を立て喉に流し込む。同時にアルバイトから帰宅したらしい長弟の健斗がただいま、とリビングに顔を出した。

「STEELO来てたんだって？どうだった？」
「早かったよ。」

　丈に聞いたのだろう、食い気味に尋ねて来た健斗に答える。数日前に設けたマネージャーとの打ち合わせ段階では、初日にワンバース録り終えれば上等、といった様子であったが、STEELOのメンバー各々の優れた技量、更に集中力も相まり、大サビまでを仕上げてしまった。我ながら、充分に満足なスタートを切る事が出来たように思う。
　二人の弟に、Aにやけてるよ、なんて言われるも仕方がない。この世に同じプレイヤーなんて存在しなければ、たった十時間前に出会った彼らの歌唱や演奏も私には新鮮なものであった。

ーーこれだから音楽は止められない。

　未成年の弟達がそれぞれの自室で寝付いたのを確認した私は、かつて母がそうしたように彼らの頬にキスを落とせば家を出た。