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三面鏡 1 ページ27

十畳ほどの和室の中には何もない。
布団も、箪笥も、本棚も、机も、花瓶も、掛け軸も。
匂いも音もないガランとした部屋の中央に、青白い三面鏡だけが置かれていた。

白の上衣と白の袴を身に着けたAは三面鏡の前に座り、じっと中を見つめる。

すると、鏡の中の己の姿も同じようにこちらを見つめ返した。

【鏡は己惚(うぬぼれ)の醸造器であるごとく、同時に自慢の消毒器である。
もし浮華虚栄の念をもってこれに対する時はこれほど愚物を煽動する道具はない。】




女は目の前の3人の女を見つめながら、長いあいだもの思いに耽っていた。
それからふと、自分が本当は何も考えていないことに思い当たった。
ただあてのない空白の中に身を沈めていただけだ。

それに気付いた時、3人の内の一人が、怒りに顔を顰めた。

瞳は烈火のごとく火花を散らし、今にも掴み掛からんばかりに彼女を睨んでいる。

もう一人はは泣いていた。ただただ涙を流し、静かに自身の首を締める。

最後の一人は怯えていた。来るべき未来と歩んできた過去、なにもかもを遮断するように、耳を塞いで蹲っている。

耳鳴りが聞こえる。
留守番電話のツー、ツーという電子音が頭に響く。


「…ッは、」


白蛇の女は喉を抑えて蹲る。
手足が痺れ、目の前が白と黒に点滅した。
吐き気を抑えるように、いじめられた子供のように、弱々しく背中を丸める。

女の顎に汗が、垂れる。



「……大丈夫」


…大丈夫、笑うのよ。


「大丈夫、大丈夫…」



口端にツゥと指を滑らせれば、それに従うように口角も上がった。

深呼吸をひとつ、ふたつ。


意を決して鏡を覗いたとき、そこに映るのは不気味なほど完璧な笑顔を保った己一人であった。

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作品ジャンル:恋愛
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星兎う次 - 初めましてー!星兎(ほしうさ)です!次のお話楽しみすぎます!頑張ってください (2022年3月29日 14時) (レス) @page37 id: f37909bd7f (このIDを非表示/違反報告)
ゆっけ - 面白いですね! (2021年12月24日 17時) (レス) @page26 id: 0c84fcb925 (このIDを非表示/違反報告)
naonao(プロフ) - 続きみたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい (2021年12月11日 20時) (レス) @page26 id: 89bf261545 (このIDを非表示/違反報告)
とも - めちゃくちゃ面白いです!文の表現の仕方も好きです!更新楽しみにしてます! (2021年11月15日 2時) (レス) @page26 id: 17c26d4027 (このIDを非表示/違反報告)
空白 - 返信遅れました。ありがとうございます!とっても励みになります〜!これからも頑張りますね (2021年11月6日 9時) (レス) id: de4d0642cf (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:空白 | 作成日時:2021年10月27日 15時

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