誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ10)

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5.不安は砂糖のように。ページ10

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軽く有声化の話と、私が関西の人だと確信を持った部分を切り取って話したところ、彼はまあまあ驚いていた。マネージャーさんも。

「なるほどなあ……そうやったんか。アクセント以外でも関西人ってバレることあんねんな」

勉強になりました。ありがとうございます、と今度は綺麗な標準語で答えてくれた。
なるほど、飲み込みも早いのか。

1人納得していると、正門さんが思い出したように話しかけてきた。

「あ、もしかして枡川さんって声優さんですか？」

「はい、そうですけど……」

「やっぱり！実はマネージャーから、今回の舞台で1人声優さんがいるって聞いてたんですよ。それで俺、とても楽しみにしてたんです！」

目をキラキラさせて、そんなことを言われた。
あくまで彼が惹かれたのは、『声優と共演できる』という事実であって、『枡川Aと共演できる』という事実ではない。それを間違えないようにしなければ。
まあそれは私の認知度の問題。新人の部類だし仕方ない。

「……光栄です」

なんて話していると、続々と共演者さんたちが稽古場に入ってきた。
何となくテレビで見たことある人もいれば、ザ・舞台女優という雰囲気の人もいる。過去に共演したこともあったりするのか、どこか仲良さげな雰囲気もあったりして。

それと同時に、ここが完全にアウェーであるという現実を改めて突きつけられた気がした。

もちろん寄り合いに来たわけじゃないからアレだけど、けど、やはり隠していた不安がちょっとずつ大きくなるのを感じる。
あれだけ息巻いていたのに。

大丈夫かな。

舐められないかな。

私は、ここでちゃんとお芝居できるのかな。

指の先からちょっとずつ身体が冷たくなってきているのを感じてると、ふと手に温かいものが触れた。
どうやら使い捨てカイロらしい。その先を目で追うと、犯人はいつの間にか隣にいた正門さんだった。

「あの……」

「東京は寒いから風邪ひかんようにってマネージャーに余分に持たされたんですけど、俺暑がりなんで。良かったらもらってください」

そのまま手のひらにそれを握らされた。
まだ袋から出して数分くらいなのだろう、握るたびに少しずつ暖かくなってくる。

心なしか、ネガティブな気持ちも治ったような気がした。

「……ありがとう、ございます」

「いいえ、どういたしまして」

彼の笑顔が、私の固まってた心を溶かしてくれるようで。
舞台監督が来る頃には、何とか気持ちを持ち直すことができた。