誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ6)

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ようやく絞り出した声は、声優とは思えないほど情けない。

憧れているからこそ、私がこの役をやってしまって良いのか。

憧れてる立場だからこそ、本気でこの役を狙っていた人にも失礼になるのではないか。

しかも普段のオーディションと違って、他の役の打診があの日は無かった。一切空蝉の台詞は見てないし目を通していない。

「枡川さん」

ぐふぐる考えていたところ、マネージャーさんが声を掛けてくれた。
真っ直ぐに私を見ている。

「貴女だから空蝉に選ばれたんだよ」

「……どういうことですか？」

「それはこっちからは教えられない、選んだのは向こうだからさ。それに、その答えは稽古を重ねていくうちに分かるものだよ」

アニメの時もそうだったんじゃない？と言われて、ふと思い出した。

去年ヒロイン役に決まったとき。マネージャーさんに、私で良いのか分からないと泣きついてしまった。
そんなときにそのマネージャーさんは、「枡川さんにこの役をやってほしいって先方が思ってくれたから選ばれたんだよ。そういう風に言っちゃ駄目、オーディション落ちた人にも、役にも失礼でしょ？」と言葉をかけてくれた。

少なくとも、私は葵上ではなかった。先方の考える空蝉に近いものが枡川Aにあったから選ばれた。

憧れの存在には貴女が合うよって、そう言ってもらえたってことで。

絶対に良い舞台にしてみせる。
声優だからって、恐らく舐められるときもあるかもしれない。
けれど、負けない。

声優としてではない、1人の役者としての決心がこのときついた。

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