誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ50)

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「へ？」

「今なんて……？」

「正門さんが持ってきたんです。それで僕が配り役頼まれて……2人に渡してなかったなって」

金城さんと目を合わせる。
まさか、いやそんなこと……？

彼にお礼を告げ、もう1つの袋を開けた。今食べたのとは違う個装の洋菓子。

「……本当に、どういうつもりなんでしょう」

さっきの和菓子があるのであれば、手元のものを渡す必要はない。何なら一言、「お土産がみなさんにあるんで」とか何とか言えば済む話だ。

「金城さん……私はどうすれば」

「……ひとまず作戦立てましょう。思いついたら連絡入れます」

監督から稽古再開の声がかかり、話はここで一旦打ち切りとなった。

「ｹﾎｯ……」

オーディションで喉を使ったことに加え、さっき買った紅茶をあの場に置き忘れてしまったらしい。おかげで喉がヒリヒリする。
水は用意してあるけど、残り少ない。

シーンとしては空蝉が光源氏から手紙をもらって悩むところ。

あまり大声を出す役でないことが不幸中の幸いかもしれない。

「枡川さん大丈夫？」

いつもは物静かな監督も、オーディションがあったことを知っていたのか気持ち優しく感じる。

「はい、ありがとうございます」

「無理そうなら言って。じゃあシーン46から〜……」

ちらっと目の前にいる正門さんを見るけど、既に光源氏モードになっているのか表情が読めない。
とはいえ役者として切り替えなくては。引きずっている私の方が子供みたいだ。

今は舞台優先で。

集中、集中。

「……はあ」

今日も今日とていつもの場所へ向かう。
あのあと金城さんは仕事があると言うことで早退。私も私でああいうことがあったためか、集中力が途切れてしまった。監督にはばれなかったけど。
加えて水も切れたし、喉は危ないしでボロボロだ。

特に今日はマネージャーさんに呼ばれてないから、時間の許される限りここにいよう。

そう思って稽古前いた場所に向かうと、置いてあるはずの紅茶が無くなっていた。多分誰かが捨てたのかもしれない。
折角だし買えば良いかな。

自販機へ向かうと、正直今はあまり会いたくない人の姿。

「枡川さんならここにくるって思ってましたよ」

「……」

私が自販機に用があることを予知してたみたいな言い方。

その手には、私があの時飲んでいたペットボトルの紅茶があった。

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キリがいいので続編いきます！
出来上がるまでしばしお待ちください！