誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ49)

今日:4 hit、昨日:96 hit、合計:41,830 hit

23.不可解な優しさページ49

.

対処法に迷っていると、金城さんが立ち上がった。

「正門さん」

「ん？何ですか？」

「あなた、どういうつもりですか？」

「……どういう、とは？」

「さっきから見ていたら、共演者に気安く触れるとかアイドルとは思えない行動ばかり。……それで叩かれるのは枡川さんの方なんですよ？それを分かってるんですか？」

金城さんはまっすぐに正門さんを見据えている。心なしか怒っているようにも見える。
正直ここまで言ってくれるとは予想外で、思わず私は硬直してしまった。

「…………」

彼は何も言わない。
けれど何か考え込んでいるようにも見えた。金城さんの言葉が効いたのかも……？

何も返さない正門さんに対し、彼女はイライラしたように私の腕を引いた。

「とにかく、こないだ味方だなんだってあなた言いましたけど、本当に味方なら正門さんご自身の立場を弁えて見守るとかしたらどうです？……行きましょう枡川さん」

「えっ、あっ、正門さん、あの、ありがとうございました。失礼します！」

慌てて荷物や参考書をまとめ、金城さんの後に続いた。
このあとも稽古だから、顔を合わせることにはなるんだけども。

「まっじで何なんですかあの男」

入室し何となくの私たちの定位置に着いた途端、彼女はしゃがみ込んだ。

「ごめんなさい、私が断れないばかりに金城さんに言わせてしまって……」

「気にしないでください。……とはいえ、あれを共演者の誰かに見られてたらちょっと危ないですね」

そう言いながら金城さんはチラッと遠くに目をやった。
女優さんの他、演出スタッフさんや音響さんも今日はいらっしゃっている。

身内とはああ言う人たちのことも指すから厄介だ。

あの場はここからはちょっと離れているから、さっきの流れは何も聞こえないと思いたい。

何にせよ目的は達成した。おまけがついてくるとは予想外だったけど。

タオルの入った袋を眺めていると、私たちより一回り小さい人影がやって来た。光源氏の子供時代を演じる子役の男の子だ。

「金城さん、枡川さん。あの、これ、どうぞ」

そう言って差し出したのは箱入りの個装の和菓子。何かのお土産なんだろうか。

「ありがとう。修学旅行でも行ったの？」

そう言う金城さん。敬語じゃないのがが新鮮だ。
私も1つ頂いた途端、彼はとんでもない爆弾発言をした。

「いえ、これ、正門さんから僕たちにと。最近参加できなくて迷惑かけたからって」