誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ47)

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22.案ずるよりも。ページ47

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それからは中々うまくいかない日々が続いた。

マネージャーさんや金城さんに励まされながら何とか過ごしてきたけれど、ここまで芝居が思うようにいかないのは初めて。いや、上手くいったらお芝居に深みが出ないからそれはそれで問題なんだけども。

ちなみに正門さんは正門さんで関西でのお仕事が忙しいらしく、あの日以降会えてないため、タオルを返せずにいた。心なしか他の女優陣のテンションも低い。

そんなこんなで今日の稽古の参加は午後から。
実は録音オーディションを通過し、スタジオオーディションに参加できることになった。現在はそのオーディション会場にいる。

今までは稽古に毎回頭から終わりまで参加できていたけど、初めて遅刻という形での参加になる。稽古スケジュールに慣れたせいか、この時間に稽古場にいないのは違和感がある。

久しぶりのこの感じ。

一人きりのアフレコスタジオ。

孤独。閉塞的。苦しい。

同時に手元の原稿が小刻みに震えているのが分かる。

でも、やらなきゃ。
変わるために、ここにいるんだから。舞台にも挑むんだから。

「M&Dプロダクションの枡川Aです。よろしくお願いします」

「手応え無さそうな感じですか？」

「ディレクションがあまり無かったので……」

場所は変わって稽古場。時刻は午後3時。現在休憩中。
目の前には金城さん。私が持ってきた参考書に目を通している。

オーディションで使った喉を癒すため、自販機で買った紅茶を一口飲む。

こういう仕事をしている以上オーディションは避けては通れない。けれど何回やっても慣れないのも事実。

正直微妙なところだ。一応録音オーディションは通ったわけだから、お芝居、または声が何かしら先方のイメージするキャラクター像に重なっている部分があったのだろう。
けれどディレクションがあまり無かった。

いや、多数あるから受かるって訳でもないんだけれど、それでもあった方が期待されてるって思える。

「終わったんですし落ち込んでても仕方ないですよ。人事を尽くしたんですから。あとは天命を待つのみです」

「金城さん……」

こういうとき、第一線で活躍されてる役者さんの言葉は不思議と説得力がある。特に彼女の言葉には裏付けがしっかりあるから、すんなりと心に入る。

……とはいえ気を緩めちゃいけないんだけども。

ふと前方から人影が見えた。

「枡川さん」

「……正門さん」

きた、話しかけられた。どうする……。