誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ40)

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19.凛とした引力ページ40

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「結局枡川さんにとって惹かれるものって何ですか？」

くりっと大きな瞳をこちら向けてくる金城さん。
そうだ、元の話題は一目惚れの話だった。

私は……

「声ですかね」

「匂いじゃなくてですか？」

「それはあくまで今回の舞台の話なので」

結局私は、声に惹かれやすいんだと思う。性別問わず。
だから私は、女優ではなく声優を選んだ。

その人が持つ声がどんなものなのかというのも、自由に言葉を組み合わせて表すことができる。無形なのに、表現の仕方は無限にある。
自由自在だからこそ、無限だからこそ、私がどんな声に惹かれるかというのは限られてくる。

金城さんの声は、名前の通り凛としていて真っ直ぐで、けれどどこか子供の持つ愛嬌も含んでるように聞こえる。何かに例えるならアルストロメリアみたいな。

正門さんの声は、深海のような、1度沈んだら抜け出せない感じ。けれど冷たくはなくて、プールの授業で感じる温みがある気がする。特にお芝居の時。

「枡川さん！遅れてごめんね！」

耳にふと飛び込んだのは、マネージャーさんの声。
打ち合わせが色々あったのだろうか、持っているバッグが膨らんでいる。

「いえ、大丈夫です。……じゃあ金城さん、私はこれで。色々とありがとうございました」

「こちらこそ、お疲れ様でした。またお話聞かせて下さい、進展込みで」

「分かりました……？」

オーディションの進展ってことかな。確かにもうすぐだし、一発で決まるわけじゃないけど……。

言葉の意図を考えていると金城さんがこちらにスマホを向けてきた。
写っているのはQRコード。

「……え？」

「枡川さんの連絡先教えてください」

「逆に良いんですか？」

「私が知りたいので」

ちらっとマネージャーさんを見やると、小さく頷いてくれた。肯定ってことかな。
そう踏んで、私も鞄からスマホを取り出した。

「……よし、そしたら寝る前にスタンプ送っておくので」

「分かりました、ありがとうございます」

『新しく追加された友達』のアイコンには、どこかのロケで撮ったであろう白いアルストロメリアが映っていた。

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