誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ36)

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「あの……」

「はい？」

「恋に落ちるってどんな感じでしょうか」

「！？」

問いを投げかけた瞬間、金城さんは椅子の音を立てながら勢いよく立ち上がった。
その表情は、お稽古でも見ないような慌てた感じがする。

「……あの」

「何ですか？」

「念のため伺いますけど、それは一体どういうアレで……」

恐る恐ると聞いてくる彼女。もしかしたら原稿の中身までは見えてなかったのかもしれない。

いや、あえて見ないようにしてくれたのかも？もしそうだったとしたら彼女は出来た人だと思う。
何にせよオーディションの内容は極秘だから、それを濁して上手く伝えないといけない。

「……今度その感覚が必要になってくると言うか」

「恋に落ちる感じがですか！？」

「それを自分で実感した上で言葉にしないと意味が無いんですよね」

「告白ですか！？」

「いや、どちらかというと自分への問いかけみたいなものなんですけれど……」

「気持ちを伝える前に踏みとどまるってことですか？いや、枡川さんにその必要は……」

「え？」

「ん？」

なんだろう。絶対噛み合ってない。

「金城さん。舞台の話じゃないですよ」

「はい」

「今日注意してくださったアレです」

そう言いながら裏返したオーディション原稿を指すと、見る見る顔色は変わっていき、なぜか彼女は慌て始めた。

「……ああ！それのことですか！！」

「逆にこれ以外何かありますか……？」

「……今後出てくると私は思います」

今日1日ほぼ一緒にいて分かったことがある。
金城さんのテレビでの姿は完全に作り込まれたやつ。

そう言っても過言じゃないくらい、全く違う。

なんというか、時々挙動不審なところに親近感さえ湧いてしまう。

……それは金城さんに失礼か。

「とにかく、私が受けるものの中にそういうセリフがあったんです。けどよく理解できないので教えていただければと思いまして」

「そうだったんですね……ごめんなさい枡川さん。私ったらとんだ勘違いを」

やっぱり勘違いだったのか。

何と違えたか気になるけど、それは今度聞いてみよう。
今は金城さんのお芝居の中身を知れる貴重な機会。これは逃すわけにはいかない。

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