誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ35)

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16.恋の音色。ページ35

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稽古終了後。

スマホには舞台担当のマネージャーさんが様子を見に来てくれるとのことだったので待機する。
……様子とはいえ、もう終わったんだけど。まあそれはいいか。

他の共演者さん達が去ったあと、改めて昨日と同じ場所に向かい、今日はオーディション原稿を広げる。

”その瞬間、恋に落ちる音がしたのを感じた。”

”一緒にいたい。視界に入りたい。付き合いたい。この気持ちが、多分好きってことだと思う。”

”待って！！いま私に話しかけてきた！？これは夢！？夢なの！？……うん、きっと夢に決まってる。好きな人が私の目を見て、私に話しかけるなんて。夢じゃなかったら何だって言うの。…………やっぱり現実！？”

2つ目と3つ目の振れ幅がすごい。このほかにも2、3個台詞があるけど、残りは所謂ツッコミゼリフ。
これはまだ恋している女の子って感じが滲み出ているから、比較的想像しやすい。

想像しやすいけど、私の表現がそこにぴたりとハマるかが問題。
繊細なものこそ、より表現が難しくなる。

加えて私にはこの初恋のドキドキ感というものはあまり理解できない。
……いや、過去に付き合ったことのある相手はいたけど、それはあくまで場の流れとかそんなのもあったしな。

悪くない時間だったけど、本当に友情の延長線上でしかなかったため、この時ドキドキしてこの時悲しくなって……って細かな感情の起伏はあまり無かった。

逆に大きい表現は誰にでもできるから、だからこそより細かな表現をできる人は重宝される。

私はそれで言ったらどの立ち位置なんだろうな。

頭をうんうん唸らせているところに、昨日と同じような椅子の引く音がした。昨日も同じようなことあったな、と顔を上げると、そこには金城さんの姿。

「金城さん？」

「枡川さんお疲れ様です。お迎え待ちですか？」

「まあ……そんなところです」

「良かった……。私もご一緒して良いですか？渋滞しているみたいで」

「あ、どうぞ」

お迎え待ちなんてされるほど有名でもないんだけどな、と自嘲してしまう。
多分来たとて別の場所に移動してスケジュールの擦り合わせとかするんだろうな。

恐らく彼女は本当にお迎え待ち。
その証拠にスマホを手に持って、色々打っている。

……そういえば今日、金城さんにオーディション原稿の存在がバレたんだった。

けどこれはある意味チャンスかもしれない。

私より演技経験が豊富な彼女なら、ヒントを貰えるかも。

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