誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ34)

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貰ってばかりだし、せめて返すものはフェアにしたい。
そう思ってしまう私はわがままなのかな。

後ろに持っていたものを正門さんに渡す。

「あの、これ……良かったら使ってください」

「……タオルですか？」

「さっきお借りしたのは、洗って返すので。嫌かもしれないですけど、でも正門さん汗がすごいし……」

金城さんの意見を聞いて決意した。
確かにそのまま返されて良い気分になる人はそうそういない。正門さんがどっちかは分からないけど、それでも礼儀として洗って返したいって思った。

けどそれでは現状の問題は回避できない。
正門さんに私が所持しているタオルを貸すことで、大きさは違うけど、それでも借りを返せることになるはず。

「や、そんな悪いですよ」

にも関わらず、彼はやんわりと拒否してきた。

待って、こうなるとは聞いていない。想定外すぎる。
こうなったら強行突破するしかない。

「や、じゃないです。お使いください」

「やからそんな、申し訳ないですって。そのまま返してくれて問題ないので」

「正門さんに風邪ひかれたら嫌なんです！」

少し大声が出たけど、この目的を達成するためには仕方ない。風邪引かれたら困るし、何より彼から学びたいことがいっぱいある。

流石にここまで押すとは思っていなかったのか、正門さんは少し驚いた表情をした。
何か言われるかと構えたけど、そのままタオルを受け取ってくれた。

「……案外頑固なんですね、枡川さん」

「それは正門さんもだと思いますけど……」

「まあ、そうかもしれないですね。……これ、有り難くお借りします」

「そうしてくれると嬉しいです」

座ってる正門さんと立っている私。
不思議な光景だけど、でも嫌じゃない私がいる。

それは向こうも同じようで、おかしそうに笑っている。

とりあえず受け取ってくれたことに安堵した。

正門さんは頑固なのか……ちょっと覚えておく必要がある。

そのまま元の場所に戻ると、慌てて金城さんが近づいてきた。

「え、あの、枡川さん」

「はい？」

「さっきの筆談の中身って……」

「あ、はい。このタオルです」

正門さんのタオルを掲げて見せると、彼女の顔はみるみる変わっていく。百面相ってやつかもしれない。

そのまま彼女は複雑そうな顔をしながら、一つ言葉を絞り出した。

「私は……どうするのが正解だったんだろう……」

その言葉の真意を私は知る由もなかった。

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