誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ30)

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その温もりをくれた人は、被せたタオルの端を持って私の下瞼に溜まってる涙を拭ってくれた。
擦らずそっと叩いてくれるところに彼の優しさを感じられる。

が、その手も横から伸びた白く細い手により視界から消えた。

「いっ……たぁ！」

「何してるんですか！付き合ってないのに女性の頬に淫に触れるなんて……」

「いや、俺は泣いてらしたんでそれを拭おうとしただけ……」

「男が言い訳しないでください、見てて恥ずかしいです」

「せめて最後まで言わせてもらっても良いですか？」

「あ？」

どうやら金城さんが正門さんの手を退けたらしい。

「あ、あの」

「枡川さんごめんなさい。私のせいですよね」

「や、違うんです……」

どうやら彼女は、自分の言葉のせいで泣いたのではと思っているらしい。

けどそれは違う。

「……本当に、金城さんのせいでは無いんです」

「枡川さん……」

「自分でも、何で泣いたのかわからなくて……ごめんなさい」

戸惑いが溢れた結果。

涙の理由を挙げられるものとしては、今はこれしか思い浮かばない。
こういうとき、語彙力のなさに呆れてしまう。

「枡川さん」

声をかけてくれたのは、彼女に追いやられていた正門さん。
さっきと同じように膝をついて、目を合わせてくれる。その顔に浮かんでいるのは穏やかな笑顔。

「俺は味方ですよ」

その一言を残し、彼の私物のタオルは私の頭にかけられたままどこかへ行ってしまった。

……味方ってどういうことだろう。

思案しているところに、再び金城さんの声が耳に入った。

「あの、枡川さん」

「……はい」

「正門さんの真似をするようで癪ですけど、私もあなたの味方でいたいです」

金城さんまで何を言っているんだろう。

そんな私の戸惑いが顔に出ていたのか、彼女は言葉を続けた。

「枡川さんの普段のお仕事が、私達と全然違うことも知っています。現に昨日、監督からの指摘に落ち込んでらしたのが見えちゃって」

「……」

「でも同時に生半可な気持ちじゃないことも、昨日の時点で伝わりました。多分、何かあってこのオーディションを受けたんだろうなって」

本当に、どこまで見透かされているんだろう。

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