誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ25)

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「枡川さん」

「……はい？」

「昨日の宿題、できました？」

心なしか彼の表情はどこか期待しているよう。そんなに答えを見つけて欲しかったのだろうか。

「……アイドルなんですよね？」

前置きしたところで何も変わらない。
ストレートに答えを伝えたところ、正門さんは満足そうに頷いた。

「正解です。ほんまに知らなかったんですね」

「テレビあんまり観ないので……すみません」

「デビューしてないですししゃあないですよ。俺らもまだまだってことがわかりましたし、むしろありがとうございます」

明らかに知らなかった私が悪いのに。逆にお礼を言われるとは思っていなかった。

彼はどこまで寛容なんだろう。

昨日観た動画では殆ど回し役をやっていた。だからといってメンバーを1人でガンガン引っ張っていくわけでもなく、横並びで一緒に行くタイプの回し役ようだ。リーダーシップがある参謀って感じなのかな。

とここまで来て１つ思い出した。
宿題＝動画を観たってことは正門さんも知っているわけで。観た以上は感想を伝えなくてはいけない。

言葉にしようと口を開いた途端、私でも彼でもない第三者の声が聞こえた。

「おはようございます」

絵画に描かれている女性のようなパッチリとした目、すっと通った鼻、一見可愛らしく見えるがそれを感じさせないキリッとした眉。
サラサラの黒髪は纏められている。

「おはようございます、金城さん」

金城凛華さん。この舞台の出演者の1人で、ドラマで多く見かける女優さん。

葵役を見事射止めた人。

「おはようございます正門さん、枡川さんも」

「おはようございます」

「お二人早いですね……昨日も早かったような」

「昨日は枡川さんが早かったんですよ、今日は俺が一番に着いたんですけど」

「そうだったんですね、流石です」

何が流石なのかは分からないけど、小さく拍手してくれた金城さんにぺこりとお辞儀をする。

「そういえばお二人何か話されてましたよね？ごめんなさい、話の腰をおっちゃって」

「いえ、そんな……」

「まあ、俺がアイドルだってことを話してたんですよ」

「……アイドル？……正門さんが？」

あり得ない。金城さんの顔はそう言っているよう。

もしかしたら彼女も、正門さんが有名事務所のアイドルとは知らなかったのかもしれない。
確かに思い返すと、昨日の正門さんの自己紹介ではただ拍手していただけだった。

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