誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ20)

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9.小さい進歩ページ20

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「数週間ぶりかな……久しぶり。元気にしてた？」

「まあまあって感じですかね」

源氏物語のオーディション結果を聞いて以来の事務所。
しかし声優部の方に足を運ぶのは久しぶりな気もする。それくらいアニメから離れていたようだ。

……本当に久しく感じる。

このマネージャーさんに会うのも久しぶりだな……。

「今回枡川さんがやれそうな役が主人公、もしくは途中参加になるけど主人公のクラスメイト……かな。どうする？」

「そうですね……」

いわゆる門外不出のキャラクター設定表をざっと見る。

今回来ているオーディションはウェブ漫画が原作のギャグ×ラブコメ。主人公は同じクラスの男の子に一目惚れするけど、彼は実は割と癖がある人で……って設定のやつ。そう言った意味では彼女はツッコミ側っぽい。

そういえば。

「アフレコ期間ってもう決まっているんですか？」

「ん？ああちょっと待って……。えっと、第一話が3ヶ月後、そこから毎週1日約3ヶ月間拘束されるね。そのあと放送期間1クールあって、その間にも多分ラジオとか生放送がある感じ」

主人公ならね。とマネージャーさんは続ける。

舞台の初日は何も問題なければ半年後。そのときにはアニメの放送もラジオの収録も終わっているはず。

今日の君島監督からの話的に、私は役の感情を理解していてもそれをアウトプットするのができていない。というか監督の望むところまで届いていないっぽい。
ある意味このオーディションは、今の時点で最大の目標である舞台に向けての特訓と考えても良いだろう。

当然仕事があるに越したことはない、が正直今の状態で受かるとも思えない。マネージャーさんには大変申し訳ないけれど。

とはいえ万全な状態では臨みたい。それは負け戦でも変わらない。

「バイトとかは大丈夫そう？」

「あー、在宅ですから問題はあんまり。ただ集中力途切れると中々できないですね」

「新しく始める予定はある？」

「このオーディション落ちたらちょっと考えます」

声優一本で食べられる人なんでほんの一握り。私はそこに含まれていない。
新人のほぼ全員がアルバイトと声のお仕事を兼ねている。現に私も在宅ではあるが声優以外のお仕事をしている。というか仕事がない時はそっちがメインになっていたりする。

とはいえこれについては問題はない。
……いや、ちょっとやばいから視野に入れているんだけれども。

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