誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ18)

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季節も季節だからか、少し寒気がしてきた。

一応練習着というラフな格好だけど、それでも撮影とかで選ぶものよりかは防寒対策がなされているはず。
……はずだけど寒い。

ちなみに正門さんがくれたカイロは既に冷たい状態。これがどれだけ心身ともに有り難かったことか……。
今は摩擦熱で暖を取るしかない。

「枡川さん」

「？」

「これ、ありがとうございます。やっぱりイラストだと頭に入りますね」

ご丁寧に彼は、私が見やすいようにとわざわざ回転させて渡してくれた。
やはり普段の雰囲気は芝居中とは全然違う。憑依型なのかな。いち役者としてはとても羨ましい。

「お役に立てて何よりです」

「助かりました。……あ、ちょっと待ってて下さい」

正門さんはそのまま荷物を置いたまま席を外しどこかに行ってしまったが、しかし一分弱ですぐ戻ってきた。
そんな彼の手には小さい缶がふたつ。

「どっちが良いですか？ブラックと微糖」

「へっ？何で……」

「寒そうにしてたんで。あと参考書のお礼です」

でどっちにします？と目の前にそれを掲げてくる。奢られたのか私は。とはいえ立場上はフェアじゃないの？
先輩方以外から奢られたことがあまり無い私は少し戸惑ってしまった。

「え、あ、じゃあ微糖で……」

「ん、どうぞ」

「ありがとうございます。……あ、お金」

鞄からお財布を取り出そうとすると、それは正門さんにより止められてしまった。

「気にせんといてください。俺がやりたかっただけなので」

諭すように目を見てそう言われるものだから、従うほかない。
おずおずと鞄に戻すと、目の前の彼はにっこり頷いた。

なんか子供扱いされてるような気がする。

その気持ちが表情に現れたのか、正門さんは少し驚いていた。

「ちょっと不満そうですね？」

「あまり近い立場の人に奢られたことが無いので……どうすれば良いか分からなくて」

「そういうのは素直に享受したらええんですよ。その人が枡川さんに与えたいって思ったってことですから」

でもギブアンドテイクのその考え方は素敵やと思います、と正門さんは更に続けた。

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