誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ17)

今日:68 hit、昨日:55 hit、合計:41,798 hit

8.中身はブラックボックスページ17

.

「や、あの、それは試験に出すって先生が言っていたので……」

「分かってますって、真面目なんですね」

「……絶対小馬鹿にしてますよね？」

「ハハッ！そんなことしないですよ、ひどいなあ」

ケラケラ笑う正門さんはやはりどこか楽しそうで。
ふと正門さんが何故この場にいるのか気になった。

「あの、正門さんはまだ帰らないんですか？」

「ん？俺はマネージャーさんのお迎え待ちなんで、それまでここを動かないよう言われてるんですよ」

動かないように言われる、とは。
それだけ正門さんが危なっかしいってこと？方向音痴とか？
いや、全然そうは見えない。

あ、新幹線とかかな。だとしても駅で待ち合わせとかじゃいけないのかな。

俳優さんとかならお迎えって分かるけど、恐らく彼は違う。何となくそう思う。

「あの、ひとつ気になったんですけど」

「ん？」

「正門さんってアーティストさんなんですか？」

「……どうしてそう思ったんですか？」

本に向けていた視線を私に移す正門さん。どこか先程の読み合わせでの源氏を彷彿させるようで、思わず目を逸らしてしまった。

「香盤表見て、後ろに括弧で何か書いてあったので……」

「……なるほどなあ」

素直にその理由を伝えると、じっと私を探るように視線を向けていた彼は小さく何かを呟いた。そして先程と同じような微笑を浮かべる。

「気になるんやったら、YouTubeで俺かその括弧内の名前で検索してみてください」

はて。
動画サイトで検索をかければ出てくるということ……それはつまり。

「YouTuber？」

「んー……まあ俺から言えるんはここまでってことで。あとは枡川さんで答え見つけてみてください」

んで、次のお稽古のときに答えてくださいね、と正門さんは続けた。

正直目の前の彼がYouTuberとは到底思えない。というかあり得ない。

いやでもそういうグループ？みたいなのもあるって聞くし……。

「先に言うときますけど、YouTuberではないですからね」

「まだ何も言ってないですよ私」

「分かりやすく表情に出てたんで。てかほんまにそう思ってたんですね」

「だって初めに動画サイトを挙げるなんてそれしか思えなくて……」

「あー……まあそう思われても仕方ないですね」

恐らくそれくらい言い出しにくいお仕事なのか。ここまでで分かったことは少なくともYouTuberでないってこと。
動画サイト見たら分かるってことはちょっとはアーティストの可能性も……？

.