誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ15)

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7.焦燥、自省。ページ15

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原作としては空蝉の終わり辺り。キリが良いということで、一旦そこで監督からストップがかかった。

ふと監督の目線がこちらに移った気がして、少し緊張が走った。所謂リテイクというか、駄目出しの時間だ。

「枡川さんさ。いや、普段舞台じゃないからかもしれないけど」

「はい」

「アレだよね、どこか客観視してるよね」

「……」

客観視。

その言葉を理解するのに、少し時間を要した。

「何というか、悪く言ったら源氏の言葉を他人事に捉えてる感じがするんだよね。特に最後の『私が人妻でなかったら』のところとか」

「……すみません」

「受け止めていたとしても表現が小さいから、それが観客からだと余計に分かりづらいから気をつけて」

「はい……」

「じゃあ次……」

客観視。

監督の仰ったことは分かる。要は第三者的に受け止めてるってこと。

私自身が相手の気持ちを受け止められていない。この場合は源氏。
……いや、演じるキャラクターで考えてるからいけないのかな。となると正門さん？

何にせよ、これでは芝居以前の問題だ。早急に対策を練る必要がある。

じゃないと、声優どころか役者としても生き残れない。

やらないと置いていかれる。

ただでさえここではアウェーなのに。

一通り夕顔まで流れが確認できたところで時間一杯になった。
出演者の方々はこの後の仕事があるのか、急いでマネージャーさんと共に稽古場を後にしていて。

時間は18時過ぎ。

マネージャーさんからは19時ごろ来てほしいと追加連絡があった。
ここから事務所まで電車で30分。ちょっと余裕を持って35分。
つまり20分は自由時間がある。

稽古場はもう閉めるため、ここには居られない。
どうしよう……と考えていると、スタジオの外の廊下に、テーブルと椅子が並べられているのが目に入った。ここなら使っても問題ないかもしれない。建物自体の閉館時間はまだまだっぽいし。

台本と、その隣に持って来た参考文献を広げた。

何がいけないのか。何が駄目だったのか。

読み込みの問題？ト書き？行間？

いや、違う。

役者として大事なものが欠如しているんだ。

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