誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ11)

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「……では、今回の舞台監督を務める君島です。よろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします！」」」

今日集まれる人は全員揃ったようで、舞台監督のひと声を合図に空気感が一転した。
とは言え舞台監督自体がその空気を作っているのではなく、恐らく全員が持つ緊張が凝縮された結果だと思いたい。

「じゃあ香盤表順に自己紹介してもらおうか。最初に、光源氏役の正門くんから」

「はい」

君島監督の指名にもたつかずに、正門さんはすっと立ち上がった。こういう場にも慣れているっぽい。

「光源氏役の正門良規です。皆さんに着いていけるよう頑張りますので、よろしくお願い致します」

彼の自己紹介が終わった途端、周りの女優陣から感嘆の声が漏れた気がした。
座長だからかな、なんて私は呑気に思っていたりして。

そのまま藤壺、頭中将、葵上、六条の御息所……と徐々に回り、私の番になっていた。

「じゃあ次、枡川さん」

「はいっ」

監督から名前を呼ばれ、慌てて立ち上がった。

アニメイベントとはまた異なる、好奇とも呼べる視線の数々。イベントとは人数が明らかに違うけれど、こちらの方が圧が強い。
それらに押されないように、とボトムを掴んだ時、シャカ……と何かが衣服越しに触れた。

温かさと膨らみからして、さっき正門さんがくれたカイロ。ふと彼の方を見ると、先程と変わらない穏やかな顔でこちらを見ていた。
それを見て、少し平常心を取り戻せた気がする。

「空蝉役の、枡川Aです。舞台経験は無いのですが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」

ﾊﾟﾁﾊﾟﾁﾊﾟﾁ……

まばらな拍手を合図に下げていた頭を上げた。
特に監督からは、私が声優だということも言われなかった。……その方が良いのかな、色眼鏡で見られるのは気持ち良いものではないし。

大まかな自己紹介が終わった後、スウィングキャストの紹介もあった。メインキャスト全員にスウィングさんがいるとのこと。
空蝉担当の方はどうやら、普段から劇団員で舞台に立っているらしい。とても心強い。

その後そのまま、読み合わせ開始。

……とは言いつつも、空蝉の出番はまだ先のため、隅っこで見学させてもらうことに。
隣に座っている空蝉の弟、小君役の男の子は中学1年生らしいが、こういう場には慣れているのか大人びて見えた。

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