誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに (ページ1)

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1.道標ページ1

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そのときは突然訪れた。

「……舞台のオーディション、ですか？」

時刻は現在17時過ぎ。

今日の仕事を終え、頭の中で先程までの反省を繰り返している時に事務所から突然の電話。

朝10時前から拘束されていたため正直帰りたい気持ちが8割を占めていたが、仕事を頂いている以上は諦めるしかない。

何かやらかしたか……と慌てて行ってみれば、全然そうでもなくて。いきなりお疲れ様、と事務の人に声をかけられ、応接室に案内された。

目の前にいるのは普段あまり関わることのないマネージャーさん。
確か舞台関係の会社と取引をしているんだっけ。前職もそっちの方だったと懇親会で言っていた気がする。

「そう。受けてみませんか？」

「……理由が知りたいです」

所属する先輩方の中には、確かにTVタレントと言うより舞台女優と呼ばれる方が数多いらっしゃる。何ならそちらの方が多いかもしれない。
けれど、それはそれ。私同じ芸能界とはいえ、私はその先輩方とは職種が違う。

私は声の役者、声優なのだから。

「あなただからこそ頼もうと思っているんだよ、枡川さん」

あくまで私は声優。
けれど目の前に差し出された用紙の内容は、舞台向けのオーディション要項としか思えない。

「どういうことですか？」

いくら頭をフル回転させてところで答えどころかヒントも得られなかったため、早めに降参した。

白旗を掲げた私に対し、実質初対面のマネージャーさんは核心を付いてきた。

「だって枡川さん、最近オーディションの戦績良くないでしょ？」

「うっ……！」

反論しようにも事実なのだから黙り込むしかできない。

ただ黙っていれば仕事が舞い込むわけでもなく、自ら足を運び、アピールし、演じることを繰り返しやっていかなければならない。ある先輩は『一生就活』といったことを仰っていたが、まさにその通りだと思う。

たった1度の内定では生きていけない。
内定を貰い続けなければ、仕事としてそもそも成立すらしないのだから。

マネージャーさんの言う通り、最近の私はそれを貰えずにいる。
1年ほど前に某作品のヒロイン役を勝ち取ったが、その作品が終わって以降アニメのメインは愚かレギュラーすら勝ち取れないでいる。

勿論惜しいところまでいくこともあるが、席が1つしか用意されていない以上は致し方がない。

今日の仕事だってゲーム音声の追加収録×2。新規収録ではないところがポイント。

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