五話・合図 ページ18
『って―――何故泣くんだい。』
振り返ったは良いものの、目先の魔法使い達は涙を流していた。融通が利くようで利かなそうなシャイロックまで。どうやら僕のみならず、大臣と書記官くんも驚愕の色を瞳に滲ませた。先程から涙を拭う彼らを視界に捉えているが、一向に泣き止む気配が窺えない。
どうしたものか…。
そう感じると、ヒースクリフが震える声で発言する。
「有り難う御座います…賢者様。この御恩は一生忘れません。」
そう無邪気に笑う顔はまだ子供だ。面影がある。
『ふふ。大袈裟だよ。』
礼を述べられて悪い気は起きない。相手が誰だろうとね。寧ろむず痒くなる。まぁ、今回は特別大目に見よう。期待に応えようと、適うか判らない相手に足掻く者は、嫌いじゃないからね。それに魔法使いと人間の関係を修復しなくては、魔法使いも人間も、大切な存在を亡くす事態になりかねないし。
なにより―――いや。考えるのは止そうか。
「……いい加減止しましょう、大臣。」
「お前まで言うな!」
優しいね、の意味を込め微笑むと、照れ臭そうに視線を逸らした若者。誰より揶揄し甲斐のある人物に違いない。
あっ。負け惜しみの予感。
「こうなったら…力づくでも、お前達を抑え込んでやる!」
『策でもあるのかい?』
大臣曰く、他の兵隊が外で待機して居る、とのこと。憐れだね。勝ち目などないのに。
「それも、魔法科学兵器を装備した大群―――」
「エアニュー・ランブル!」
大臣の語りは後に続かず、突如として大臣が消えた。いぃや、違うねぇ…。新しい気配が一つ増えた。それにふと聞こえた呪文…。感じ取った気配は魔法使いのものか。でも何処かで聞いた声にそっくりだ。
おっと済まない。脱線したね。話題を戻そう。
僕にしては珍しく取り乱してしまったよ。消えたと思ったが、大臣は立っていた場に服を残し、全体的に鼠と化した。鳴き声まで完全再現されている。
其処へ窓から入り込んで来た、一人の青年は鼠の尻尾を掴み上げてはニヤッと不敵な笑みを浮かべた。
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作者名:暗明 x他1人 | 作成日時:2023年6月5日 13時