私を忘れないで ページ4
３月。もうすぐ卒業シーズンが来る。
折寺中学三年生。緑谷出久は無個性だ。
明日で終わりにしよう。
昨日、勝己に爆破され捨てられたノートを眺めながら、そう考えた。ワンチャンダイブ ?
「 言われなくても 」
憎しみを込めて小さく呟く。数分後、母親に呼ばれ急いで家を出たのは言うまでもない。
外は桜が満開で、吹雪の様に花びらが舞っていた。何を考えたのか、桜の花を一つ、枝からちぎっていた。思い出したのは、これから僕を怒鳴り嗤うであろう幼馴染だった。桜の様に可憐な彼は、繊細で、僕しか知らない一面を沢山もっている。僕はそっと、花をポケットに押し込んだ。
放課後。
予想通り今日も勝己が突っかかってきた。最悪な気分だったが、それもこれも明日で終わると思うと気が軽くなった。誰も居なくなった薄暗い教室を後にして、出久は真っ直ぐ家に帰った。
「 ...あった ! 」
かなりゴチャついているであろう棚から便箋を見つけ出し、最後の手紙を描き始める。一文字一文字丁寧に。描いているうちに、今までの思い出が走馬灯の様に蘇ってきた。それは全て、勝己との思い出だった。思えば僕は、幼馴染が好きだったのかもしれない。凄く嫌いな筈なのに、桜の様に可憐、なんて表現をするんだから。そこでふと、桜の花言葉を思い出した。あぁ、今の僕の気持ちにぴったりじゃないか。ポケットから取り出したそれを、手紙と一緒に封筒に詰め込んだ。
幼馴染の家へ向かう。出来るだけ早く、気付かれないように。
手紙をポストに入れて、家へ帰る。これが、僕の最後の一日前だ。
「 あ? んだこれ 」
出久の幼馴染。爆豪勝己は家のポストを開けた。
中に一つだけ、封筒が入っている。そっと開けると、桜の模様の手紙と一緒にしおれた桜の花が入っていた。あぁ、この字は出久の字だ。今さらどうしたって言うんだ。一つ一つ丁寧な字で描いてあって、寒気がした。
「 気持ち悪ぃ 」
内容も読まずに、手紙は破り捨てた。ただ、花だけは、なんだか捨ててはいけない気がして、そのままポケットに押し込んだ。
その日、出久はﾀﾋんだ。
飛び降り自殺だそうだ。なんだ、これ。俺が言った事だ。俺のせいじゃねぇか。焦りを隠して、すんだ顔でポケットに手を突っ込む。手に違和感。朝入れた、桜の花だ。花言葉は...
あぁ、やっぱり、あいつは気持ち悪い。
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作者名：なっつ | 作成日時：2023年4月8日 13時
