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棗くんは、本当はあたしの誕生日プレゼントなんて欲しくないんだよね。
あたしが勝手に舞い上がって選んだだけ。そんなの凄く迷惑だよね。
どんどんカメラの前に集まって行く皆を見ても体が動かなかった。もう此処から消え去りたい。
体が勝手に動いてた。足が向かったのは棗くんの部屋の入口であり、出口であるところ。
足はそっちに向かっていたのに、急に引き止められた。右腕と左腕に温かいぬくもりを感じた。
「…みんなでって言われたの、聞こえなかったのか」
「Aにそんな顔は似合わないよ？」
何時もより少し低くて怒ったような、呆れたような声。何時もより少し高くて心配してるような、励ましているような声。
「…棗くんっ、流架っ、」
２人に引かれるまま、皆がスタンバイしてる写真の前に来た。皆、あたしの事を笑顔で迎えてくれた。
「てめえの居場所はここだ。忘れんな」
「ほらA、笑って？」
パシャリッと音がした。
多分、あたしは上手く笑えてなかったと思う。
だって、あたしの方を真っ直ぐ見て言った流架の言葉と棗くんの言葉が、あまりにも嬉しかったから。
嬉しくて、泣きそうになっちゃったから。
「みんなー！写真でてきたでー！」
「お？マジ？俺、格好良い？」
「…あなたのファンに売ったら儲かるかしらね」
「…えー？それは何か嫌だなーって、おいおい蛍さん。本人が目の前にいるのに言うんか……あ、棗カメラ目線じゃねえな」
「あ、ほんまや」
出てきた写真を見てみると優しい笑顔でAを見ている棗が写っていた。
「Aちゃんもメッセージ書きなよー！」
「ほらほら、はいペン！」
心読みくんにバースデーカードを差し出された。キツネ目くんが言いながら笑ってペンを貸してくれたのは良いんだけど、何を書いたら良いんだろう。
とりあえず皆が書いてるからあんまりスペースがない。一言くらいしか入らないかな。
「おい、痴漢女」
あたしの事を痴漢女なんて呼ぶのは棗くんしかいないんだけど、その呼び方は嫌だな、なんて思っちゃう。
「…あのっ、棗くん…その、」
名前じゃなくて良いから、せめて名字で呼んで欲しいだなんて、おこがましいかな。
「……お前は何もねーのかよ」
目をパチクリとさせてしまった。余りにも予想外の事を聞かれてしまったから。
棗くんが、あたしからの誕生日プレゼントを、待っててくれていた？
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作者名：未来 | 作成日時：2022年11月24日 13時
