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その頃、ベンチに座る棗は盛大な戦いを終えて溜息を吐いていた。その溜息は、今回の面倒臭い事この上ないシャッフル事件と、先ほどの会話にあった。
これまでの棗の遍歴はまず、コケた蛍ルカにぶつかったショックで入れかわり、蛍の体に入る。
元に戻った流架が蛍を探しにこの場を離れると、ガサっと草木が揺れる音が届いた。見ると、パンチの素振りをる自分の体に入ったベアを発見。
棗ベアと蛍棗の睨み合いが数秒。世紀の対決で取っ組み
合いになった末、無事に自分の体に戻ることができ、今に至る。
蛍ベアは素振りをしながら、何処かへと去っていった。そして棗は、先ほどの会話を振り返る。
「待って、棗くん待って」
自分の姿をした委員長が歩くのも辛いと言った顔をして心臓を手で押さえていた。
「こんな事きいて…ごめんなさい。でも、気のせいとは思えなくて…」
いつも自分はその体調で冷静を装っていたのかと、どこか他人事のようにも思った。
「さっきから棗くんのこの身体…こんな…こんな状況で棗くん、いつから…もしかしてずっとこの調子が…？」
ああ、面倒と思った。心の奥底から。今まで何事もないように演じてきたのに。
それが全部、水の泡になったような気さえした。だから何も言わずにその場から背を向けたのだが。
お人好しで心配性な彼のことだ。どうせ今頃、クラスの人間やいつもつるんでいるお馴染みのメンバーに話しているに違いない。
「…棗……？」
一人でどこかに行ってしまいそうで。
一人になる事を望んでいる気がして。
目を離せば、フッと簡単に消えてしまいそうで。
委員長の言葉を聞いて居ても立っても居られず、気づけば走り立っていた。
棗の身体がそんなに悪いとは思ってなかった。無我夢中で走り、漸く見つけたAは思わず声をかけていた。
「…棗、だよね？」
棗がベンチに座っているのを見つけた。でも、あたしに気づいた様子の棗がバッと顔を背けた。
どういう意図があってそうしたのかは分からない。疑問に思いながら、棗の前に立って両手を伸ばした。
「もしかして、本当に棗じゃないの？」
勘違いかどうかを確かめるために、背けられた棗の顔をこっちを向かせて、頬を両手で挟んで目を合わせる。
「…棗じゃないなら……もしかして、…ベア？」
もし棗だとしたらここで多分、あたしの手を払い除けるはず。大人しくされるがままって事はやっぱりベア？
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作者名：未来 | 作成日時：2023年11月1日 20時
