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「白崎…お前、体育祭の時、棗さんの事好きだって…」
「ち、違う！それは前にも言ったけど誤解だよ！あれはその、咄嗟に出た嘘だから！」
棗の取り巻きでいつも隣にいる遠隔操作のアリスである持ち上げ君に小声で言われ、大声で否定してしまった。
「と、とにかく…っ、あたしは、棗を信じてる…
あたしの知ってる棗は、何の事情もなしにあんな態度をとる人じゃないから」
窓枠に座ってどこか遠くを見つめる棗に視線を戻すと、やっぱり不安になる。
今の棗は儚くて朧気で、目を離せばフッと簡単に消えてしまいそうで。
「だから、今は棗を信じて待つ。
棗が自分の意思で話してくれる日を待つよ」
A達を置いて、一人でどこかに行ってしまいそうで。一人になる事を望んでいる気がして。
「…お前と棗さんて、本当に付き合ってないんだよな…不思議だ」
「つ、付き合うなんて、そんなの、あるわけないよ」
誰の心にも自分の欠片を残さないようにしてるような。
棗の行動１つ１つにそんな決意を感じて、Aはそれが堪らなく恐くて、目が離せなくなる。
「………」
「…あの、…みんな？」
Aの言葉に感化されたのか、持ち上げ君がAの肩に手を置いた。
彼の後ろにも同じ様に生徒達が手を置いて行き、いつの間にか分かり合えた漢達の長蛇の列が出来ていた。
それ以上言葉を交わすこともなく、Aと持ち上げ君が熱い握手を交わすとその周辺に生徒達が集まる。
そんなA達を月は離れた席から憎ましげに見ていた。体育祭の日から月は猫を被る事もなく、Aや蜜柑にも近づかなくなった。
今までの事が嘘だったかのように大人しい。月の脳裏に浮かぶのは初等部校長との会話。
「──計画変更だ、月。
白崎Aと佐倉蜜柑を、もうしばらく様子見する」
『校長?』
高級な椅子に座り足を組んで、初等部校長は月に言う。月はただただ驚いていた。あれだけ邪険にしていたあの２人を何故今更、それだけが月の胸中を占めていた。
「九条茜と安積柚香をおびき寄せる以外、ただ目障りな存在でしかなかったが…」
校長はそこで一旦、口を閉じる。その口は弧を描いて、目は歪んだ何かを携えていた。
「もし、あの娘達に“盗みのアリス”とそれに同様する“アリス”が宿ってるとしたら、話は違う」
嬉々とした顔をする初等部校長に、月は焦りを感じた。
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作者名：未来 | 作成日時：2023年11月1日 20時
