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落書きを指でなぞる蜜柑を見て、あたしの体は勝手に動いてた。
「無理に消すことないよ、」
あたしは蜜柑の手からスプレーを取ると床に置いた。顔を上げて、ふと見つけた落書き。
From A to N.
Dear R.
先生と柚香の傘の下の方に、小さく短い文章が書かれていた。相合傘の他に、愛の告白があった。
貴方の気持ちとは違うけど、年下で凄く生意気で
女の子にモテモテな君が、私は好きだよ。
出会いは最悪で会う度に口説かれて、好きになるなんて思わなかったけど、気づいたらずっと貴方を想ってた。
大好きだよ。
あたしはそれをじっと見つめた。字が似てるから、同じ人が書いたのかな。
「なあこれ、矢印書いてあるぞ」
「矢印?」
「ほれ、ここ。告白の返事か?」
翼くんに言われて見ると、書いてある文章に矢印が引っ張ってあった。
その文章も誰が書いたか分からない。けど、何だか凄く嬉しくなった。
誰を好きでも、俺も先輩が好きだよ。
この想いはずっと変わらない。
やっと、やっと振り向いてくれた。
俺はお前を愛してる。
「…!」
「ま、どーせ本棚の裏で隠れちゃうとこなんだし」
「あ──翼先輩ひどーい!」
「キシシシシ、何となくいい気味」
「アハハハハアハハ」
翼くんは空白の所に、マジックペンで矢印と鳴海先生の名前と割れたハートマークを書き足した。
ゲラゲラと笑う翼の隣でいつの間にか現れた蛍もお腹を押さえながら笑っていた。
「そんな事したら、鳴海先生かわいそうだよ」
「それに相手誰か分からんのに──」
「あ──お前ら。何、落書き増やしてんだこら──!」
そんなあたし達を見た明良くんや美咲ちゃんが加わって落書きは大きなものになる。
「いーんだよ、どうせ本棚の裏なんだし。いちいちこまけーなーおっさんは」
「そーゆー生意気な口をきくやつは──、えいっ」
「ちょっとあんたら、何やってんの。も──!」
明良くんは壁に翼くんと美咲ちゃんの名前を書いて2人をハートマークで繋ぐ。それを見た美咲ちゃんは2人を注意したり怒ったり。
ただの落書きがいつの間にか家系図へと発展していく。騒ぎを聞きつけた皆が次々と集まり掃除を忘れて、好き勝手に家系図を書き始めた。
「…えへへっ、これで2人は大丈夫だよ!」
先生と柚香。その名前が書いてあった傘の上に、ハートマークを書き足した。大丈夫、きっと、大丈夫だよ。
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未来(プロフ) - てあさん» 嬉しいお言葉、ご愛読いただきありがとうございます。 (2023年3月24日 22時) (レス) id: ff0bac3a56 (このIDを非表示/違反報告)
てあ(プロフ) - すごく面白くて大好きです。 (2023年3月24日 3時) (レス) @page50 id: 0608e9eaca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:未来 | 作成日時:2023年1月11日 19時