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何時でもどんな時でも、あたしの考えが分かっているかのように言葉をくれる、欲しい言葉をくれる璃音くん。
コクリと頷いてあたしは立ち上がった。先程、棗くんが閉めた扉を開けた。向かう先はもう決まっていた。
「頑張れ、A…」
“…お兄ちゃん、お兄ちゃん”
廊下にある大きな窓の近くで、外を眺めている棗くんを見つけた。
真剣な表情。でも、何処か苦しそうに外を見る棗くん。
“お兄ちゃん、助けて…”
ねえ、棗くん。
今、棗くんは何を考えているの?
何が聞こえているの?
何とたたかっているの?
あたしに、その痛みを少しでも分けてよ。
「……棗くんっ、」
「…っ…何だよ、」
少し驚いた顔をする棗くん。でもそんな事を構っている余裕なんてなかった。
「はっ、」
額縁に腰をかけていた棗くんの手を、無理やり握った。その手をあたしの両手で包み込むように。
「な、棗くんはっ、1人じゃないよ!流架も璃音くんもいるっ!それに、それに、あたしだっている!
だからっ、1人で何もかも背負わなくて良いんだよっ、あたし達は、側にいるから!」
───俺は一体、何度、
こいつの言葉に救われたんだろう。
何度、こいつに光を見たんだろう。
「棗くんっ、これ、棗くんへの年賀状!
わ、渡したからねっ…!
返すって言われても、受け取らないからねっ!
それからっ!ちゃんと、ちゃんと、戻ってきてね!」
言いたい事だけ言って、棗くんの手に年賀状を置いて、あたしはその場から駆け足で離れた。
「あ、」
離れようと思った。
けど、棗くんに一言だけ言いたくて。
「棗くん!明けましておめでとう!
棗くんにとって良い年でありますよーにっ!!」
棗くんの方を振り返って叫んだ。
「…year、スペル違げーし。」
───貰った年賀状。
それに書かれていた、HAPPY NEW YEER。
帰国子女なのに間違えてる。
あいつ、どんだけアホなんだよ。
なんて、それだけの事で笑えた自分。
そんな自分に驚く反面、思い知らされた。
“棗くんっ、”
ああ……
やっぱり、俺、
Aが…Aが好きだ
柄にもなく手が震えた。
誰かに何かをあげようと思ったのも、
綺麗な包みにいれて貰ったのも、始めての事だった。
ただ、どうしても、あいつに渡したかった…
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未来(プロフ) - てあさん» 嬉しいお言葉、ご愛読いただきありがとうございます。 (2023年3月24日 22時) (レス) id: ff0bac3a56 (このIDを非表示/違反報告)
てあ(プロフ) - すごく面白くて大好きです。 (2023年3月24日 3時) (レス) @page50 id: 0608e9eaca (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:未来 | 作成日時:2023年1月11日 19時