【夕闇】ハートビートは鳴り止まない【短編集】

c．天才 ページ23

「将明くん」





東京からは、ずいぶん離れた千葉の小さな町。



冬に座るには、ちょっと寒そうな丘の上にあるバス停のベンチに、ぽつんと二人座っている。





千「なに？」







将明くんは、少し長くなった前髪をゆらして此方を向いた。








「明日、引っ越しちゃうんだよね」





千「うん」






いつもぼーっとしてるような将明くんは、今日も同じ。





「将明くんは、寂しくないの？」





千「寂しいけど、環境が変われば新しい音楽が見つかるかも、とか思うと結構楽しみ」





「そっか、じゃあその新しい音楽、楽しみにしてるね」








私の言葉を聞くと、少し顔を赤くしてはにかんだ。




その笑顔は、この夜空に輝く星のよう。







千「星、きれいだね」





「うん」





千「東京に行ったら、見えないのかな」





「富士山に登れば見えるよ！」





千「富士山は東京じゃないよ」





「そっか〜やっぱり将明くんは天才だね」






私が言ったつまらない冗談にも笑ってくれるその笑顔が、好きで好きでたまらない。






千｢俺は天才なんかじゃないよ、おすべり先生だし、ポンコツだし｣






確かに将明くんは、あんまり面白いことを言うのは得意じゃないし、ドジな所もあるけど、









｢将明くんは、私を笑顔にさせる天才だよ｣









私にとっては、こうやって君と他愛のない話をする時間が、いちばん幸せだよ。









.

k．年上彼女→←n．ご飯

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す