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ここで動揺を見せるわけにはいかない。何としても、自分が住民を、モンドを守らなければならないと思った。幸いそのファデュイの人物は一人、1対1ならば勝てる。これは過信ではなく、確信だ。彼についての戦闘能力は、道案内をしている時に大体予想できた。脅威にはならないからこそ、モンドまで招き入れる形になってしまった。
「…おい、ここはどこだ?」
「…」
人気がないところへ連れていったことで、男は次第に不審がりはじめた。だがそれはAの想定内だった。
「(この辺りなら大丈夫でしょう)」
「おい、聞いてんのか…!」
刹那、Aは目にも留まらぬ速さで剣を抜き、男の喉元に突き出した。
「まずは先ほどの無礼のお返し、ですね」
「ぐっ…!」
殺生はする気はない。この男が大人しく引き返すなら、きつく忠告した後に帰そう。
「西風騎士団へはいかせません。大人しくここから立ち去りなさい」
「さもなくば…」と、剣を少しだけ男の喉に当てつける。だが、男は確かに動揺していながらも、どこか余裕そうだった。Aは警戒を解くことはしなかったが、突然後ろから覆いかぶさってきた数人の男達には、どうやっても対応をしきることは出来なかった。
Aはとうとう数人の男達によって、取り押さえられてしまった。路地裏なため、人が滅多に通ることはない。その地の利が裏目に出てしまった。人が来る気配が全くない。
「さっきはよくもやってくれたな」
男がそう言ってAの腹を力一杯蹴り上げる。
走る鈍痛。
「ぁ…ッ」
思わずむせてしまう。口から出たのは音にならないようなかすれた声。
男は満足そうにAを謁見しながら、少し考える素振りを見せてから彼女に告げた。
「そうだな…。お前の神の目がなくても高い戦闘能力はもしかしたらファデュイに大いに貢献することになるかもしれない。おまえが大人しくファデュイへの貢献を誓うのであれば、モンドへの侵攻をやめよう。」
モンドと自分の命を天秤にかけた時、答えは既に出ていた。Aに迷いはなかった。自分一人の体で事足りるのなら、それが一番良い。
「…わかりました。ですが、モンドへ何かしら被害を加えた場合、私は即刻あなた達組織を潰しにかかります」
「いい度胸だが、ファデュイは約束は守る。」
男は鼻で笑って、Aと共にモンドを去った。
モンドの風を思い出すことはもうないのだと、悟った。
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作者名:ぽの | 作成日時:2022年2月2日 1時