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しかしある日、ディルックが『闇夜の英雄』(本人は気に入っていない)として夜のモンドを駆けていた時、Aもまた、夜のモンドを眺めながらたそがれていた。
ディルックはアビスが現れたという噂の真意を確かめるために出向いていたが、それは徒労に終わって帰宅する途中だった。ただの噂話だったのは良いことだが、いちいちそんなものに翻弄されるのは少々骨が折れる。誰が悪いということがないので、この辟易した気持ちのやり場もない。
「帰るか…」
一息ついてからモンド城を囲う城壁を軽い身のこなしで登る。
ディルックはいつも、この城壁を登った時、降りる前にモンドの情景を一通り眺めるのが好きだった。城壁というある程度高い場所から見るモンドは、日中に住民で賑わっている時とはまた別の顔を見せてくれる。
この日もいつものように、ディルックは城壁から景色を眺めていた。星がこぼれそうなほど瞬いていて、人工的な光がほぼないのに、街が明るく照らされている。
そんな美しい景色をみていると、先ほどまであった疲れも嘘のように消えてしまい、自然と顔が綻ぶ。
「今日は一段と綺麗ですよね」
すると突然声をかけられたものだから、ディルックは咄嗟に身構えてしまった。
他人の気配に気付かないほど気を抜けていたのか、それとも…。
ディルックが警戒していることを察すると、その声の主は慌てた様子で弁解した。
「あ、あぁすみません！せっかく景色を堪能していたのに、お一人の時間を邪魔してしまいました…」
今まで暗がりにいた声の主が、今まで雲に隠れていた月明かりが差し込んで露わになった。
「君は…。」
「あ、初めまして。私はAです。たまにここで景色を眺めているのですが、まさか他にもこのモンドの景色を堪能している方がいるとは…。嬉しくてつい声をかけてしまいました。」
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作者名：ぽの | 作成日時：2022年2月2日 1時
