番外編53話 罪穢れ ページ44
Aside
流氷の上を走る。
A『アンケシさんッ・・・・！！』
怖い思いをしていないか？
アシﾘパと一緒にいるのか？
俺を忘れていないだろうか？
また・・・俺のもとに戻ってきてくれるだろうか。
不安が頭をよぎる。
百に何かされていないだろうか。
・・・手を汚していないだろうか？
『【その虎はアンケシさんとアチャのお陰でウェンカムイにならずに済み、寒さからアンケシさんを守ってくれる毛皮になれたんだな】』
「【・・・・・都合良く解釈するとそうだな】」
そういえば、アンケシさん。
あのあと、なんて言ってたっけ？
ーー ーーー
アンケシ「迷い込んで来ただけで悪いことはしなかった虎を仕留めた」
「アチャの銃口から出る煙と張られた弓を見てコタンの皆は歓声を上げた」
「私は納得が出来なかった」
A『・・・それはどうして？』
アンケシさんは俺を見つめたまま、ポツリと呟いた。
アンケシ「虎はどうして反撃しようとしなかったんだろう」
「あの時、私は虎を斃すのに必死で虎の声を聴こうとしなかった」
「もし虎の声を聴くことが出来ていたら・・・なんて考えてしまう」
手の中にある虎の毛皮の感触。
先程よりも、もっと身近に感じる。
アンケシ「私はあの時の虎になりたい」
「万が一、人を傷つけてしまうことになるのなら、私は喜んで自分の命を差し出す」
「私が原因で何か悪いことが起きるのだと分かった場合は、私も虎のように」
「清純な死を迎えて、死にたい」
碧色の瞳が揺れることなく俺を見据えていた。
眩しくて優しい
正しいことを成す、それをやり遂げるのが彼女の正義だ。
それを果たすためなら自分の命さえ差し出せてしまう。
A『・・・アンケシさんはなれないよ』
だって。
ーー ーー
霧が晴れて、真っ白な毛皮を羽織った少女が毒矢を自身に向けている姿が視界に飛び込んだ。
――まだ、清純な死を迎えるべきではない。
気がついたら銃を男に投げつけていた。
アンケシさんと一瞬、目が合った。
そうだ、虎の話をしていた時、アンケシさんは今と同じ顔をしていた。
虎もきっと喜んで命を差し出した訳じゃない。
アンケシさんだって、そうだろう？
まだ、死なせない。
俺の目の前ではもう、死なせない。
A『生きろッッッッ！！！』
番外編54話 ユルバルス→←番外編52話 山猫の子供は山猫（2）
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作者名：白文鳥 | 作成日時：2020年12月13日 12時
