番外編41話 家族（3） ページ23
雪菜「たとえこの命が尽きようともこの子を産んであげたい」
「素晴らしい世界をひと目見てほしいのです」
寿三「・・・・・そうか」
ーー
数ヶ月後、雪菜は無事に子供を産むことができた。
医者は奇跡だと笑い、子供の生命力が高くて良かったと頷いた。
雪菜「元気な男の子です。どうかお名前は寿三様が」
寿三「・・・・私が？」
雪菜「私が頑張れたのは貴方様のお陰です。
名付ける権利はあなたに」
私と雪菜の子供。
なんとなく私と似て育つ気がする。
でも、力強さでいえば雪菜か・・・。
【寿雪】は安直すぎるかなぁ・・・。
寿三「あ」
そうだ。良いものがあった。
寿三「A。この子の名前はAだ」
雪菜「意味は？」
寿三「それは――・・・・」
雪菜は「いい名前ですね」と頷き息子を抱き締めた。
雪菜「A・・・産まれてきてくれてありがとう」
寿三「・・・ふたりともよく頑張った」
雪菜「泣いてるんですか？」
寿三「・・・・これは汗だ」
雪菜はそっと私にも腕を回した。
ーー
将来の夢を私に聞かせるAは楽しそうだった。
この子から夢を奪うことよりも、雪菜が死ぬことを恐れた。
だから、Aは少しの間だけ犠牲になってもらって、事がうまく進めば迎えに行こうと考え北海道に連れて行こうとした。
でも、雪菜はそれをゆるさなかった。
焦りと不安と怒り。
気がついたら雪菜は動かなくなっていた。
Aは私を軽蔑し、【最低の人間】と罵った。
私はどうすれば良いかわからず余計にAを傷つけた。
その代償は大きくAは私を父親として見なくなった。
竹本軍曹を慕い、私とは仕事上での話しかしない。
一度ついてしまった悪人という名の肩書はあまりにも濃く取り消すことは出来なかった。
本当ならば、謝りたい。
歪んだ関係を戻す努力もしない。
後悔が募り雪菜への想いが増すばかり。
ーー ーー
Aの頬に伸ばし、触れる。
Aは抵抗するどころか私の手を掴んだ。
そして、優しい表情を浮かべていた。
雪菜がよく言っていた。
「【Aはとても優しい子供なんですよ。
人の痛みを理解できるから。受け入れてくれるんです】」
恨まれて憎まれた私でも、Aは最後の最後で受け入れてくれた。
【ありがとう】
やり直せるのなら。
来世は、幸せにすると断言できる父親、旦那になろう。
そしたらまた、家族になってくれるか？
雪菜、A。
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作者名：白文鳥 | 作成日時：2020年12月13日 12時
