219話 残したいもの（1） ページ26
ASide
暫く俯いていたアンケシさんだったが、やがて顔を上げた。
そして、笑顔を取り繕い、立ち上がった。
アンケシ「情けない姿を見せてしまったな！
さあ・・・アシﾘパたちのところへ戻ろう」
A『・・・・・そうだね』
アンケシ「シロが山に入っていくのが見えたから、アシﾘパと佐一もそこに向かっているはずだ」
「行く前にお祈りをしようか」
アンケシさんはそういうと道具を取り出してお祈りを始めた。
昔は、この音が聞こえると、安心した。
この音がすると、ウイルクが迎えに来て、一時の間は孤独じゃなかった。
A『古きを重んじるアイヌの女だからそういう儀式はいつも大切にするのかい？』
アンケシ「祈りをするのは伝えたいことがあるから」
「祈りを通して私達はカムイと深く関わろうとしている」
「でも、マッチが出来たお陰で猟に出るときしかこの道具を使わなくなった」
「どうすれば残せるんだろう」
アンケシさんがポツリと呟いた。
アイヌは交易や交流を重ねるうちに便利なものを手にするようになった。
確かに、俺が子供の頃に見たアイヌと現代のアイヌとじゃ、生活様式がガラリと変わっている。
【形あるものはいつかは壊れる】。
残したいものがあっても、この先何十年も経てば消え失せる。
アンケシ「よし。出発するぞ」
アシﾘパ「アンケシー！！松崎ー！！」
アシﾘパの声が聞こえてきた。
杉元「クズリ獲れたから食べようぜ」
どうやら、先に山に登っている途中でクズリと遭遇したらしい。
アンケシさんの腹が大きな音をたてた。
アンケシ「よし。食べるか！クズリ」
A『・・・・うん』
ーー
俺達はクズリをいただくことになった。
杉元「ん〜〜 やっぱ一緒の味に感じる」
アシﾘパ「クズリ食べられて良かったな？
杉元、松崎。ヒンナヒンナだな？」
A『脳みその味なんて全部一緒だろ』
隣に座っているアンケシさんが脳みそを口に入れている。
とても・・・深刻そうな顔で。
アシﾘパ「アンケシ。脳みそ嫌いじゃないのか？」
アンケシ「・・・・・ゔん」
杉元「無理して食べることないよ？」
A『吐くぞ。そのうち』
アンケシ「うっぷ・・・」
アンケシさんが無理やり喉に押し込んだ。
一体、どうしたんだろう。
何か、変だ。
杉元「で・・・あんたらここでなに撮ってたの？」
俺たちの食事の様子をジッと見ていたオッサンたちに杉元が声をかけた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 10人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
白文鳥 - ととさん» 嬉しいお言葉を有難うございます！訳あってこの作品はpixivにお引っ越ししました。励みを有難う御座います！そちらの方で頑張ります！ (2022年1月8日 19時) (
レス) id: 50fca864bb (このIDを非表示/違反報告)
とと - ここまで一気に読み進めてしまいました。続きが読みたくて、急いで単行本を読みました笑 主人公と周りとの距離感がたまらなく好きです。 (2021年6月24日 22時) (レス) id: 2c3ad1893b (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：白文鳥 | 作成日時：2021年1月18日 21時
