218話 融雪(3) ページ25
Aは軍帽の位置を直した。
アンケシ「・・・トゥキが必死に私を連れて行こうとしても」
「これじゃあ、無意味だったな」
「わたしは・・・なんで生まれてきちゃったんだろう」
私さえいなければ。
A『・・・・・俺は良かったと思うよ』
良かった?なにがだ。
私さえいなければ、樺太は、ここは。
アンケシ「【過去を捨てずに、皆のために生きる】」
「アチャが私につけてくれた名前。
意味をようやく思い出して・・・和名だって」
これから・・・これから。
これから、私は前を向いて、キロランケニシパに託されたものを繋いで行かなければならない。
その為に、このコタンを見て・・・・。
A『【過去を捨て去り、自分の為に生きる】』
Aが私を見つめた。
そして、小さな笑みを浮かべた。
A『アンケシ。【新しい一日】。
アンタは自分の未来の為だけに進めば良い』
『俺は・・・イソンノアシのこと理解するつもりもないけど』
『全部あんたに背負わせようとしている訳じゃないって思ってる』
Aが私の頭に手を置いた。
そして、ぐしゃぐしゃと撫でくり回した後に、
『聞いたよ』と呟いた。
A『【煮雪黎子】ってどうやって書くか知ってる?』
当然、漢字が分からない私が書き方を知ってるわけがない。
アンケシ「・・・どうやって書くんだ?」
Aは小さく頷いて『教えてやるよ』と微笑んだ。
そして、その場にしゃがみ込むと、降り積もった雪に指を当て、文字を書き始めた。
A『煮雪の【煮】は火を通すこと』
『そして煮雪の【雪】は・・・そのまんまの意味』
『黎子の【黎】は夜明けとか明け方。
朝日のこと』
『黎子の【子】はこどものこと』
真っ直ぐ、綺麗な文字を書いていく。
Aは少し間を開けてから、地面に書いた文字を何度もなぞりながら、独り言のように話し始めた。
A『【子供の様な明るさが人の心を救い、
『暗闇にいる人間にとって、夜明けの光は眩しすぎるけど・・・不思議と目が離せなくなる』
Aは私の背中をそっと撫でた。
そして、ポンポンと優しく叩く。
A『疲れたなら休めばいい。
肩を貸してほしいならいつでも貸すから』
『俺が・・・アンケシさんの手をひいて歩くよ』
『・・・自分の生を否定しないで』
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白文鳥 - ととさん» 嬉しいお言葉を有難うございます!訳あってこの作品はpixivにお引っ越ししました。励みを有難う御座います!そちらの方で頑張ります! (2022年1月8日 19時) (レス) id: 50fca864bb (このIDを非表示/違反報告)
とと - ここまで一気に読み進めてしまいました。続きが読みたくて、急いで単行本を読みました笑 主人公と周りとの距離感がたまらなく好きです。 (2021年6月24日 22時) (レス) id: 2c3ad1893b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:白文鳥 | 作成日時:2021年1月18日 21時