121話 夏に言われぬもの（3） ページ6
俺はアンケシさんを背中に乗せる。
アンケシさんは小さな声で「悪いな」と謝ってきた。
そして、ウエペケﾚをポツリポツリと語りだした。
アンケシ「蛇は元々天上に住んでいて凶悪な性質だった。やがて地上が造られ火の神アペフチカムイが天上から下りる時、蛇は一緒に降りたくて懇願した」
「【どんなに苦しくても死んでもいいから連れて行ってください】」
「蛇は稲妻に乗って地上へ飛び降りた。雷の神様カンナカムイは蛇の神様でもあり同一視されている」
「飛び降りた威力があまりに遠く地上に大きな穴が空き蛇はそこに住むようになった」
「蛇が人間に姿を見せるときは何か危害を加える時なので注意しなければならない」
アンケシさんは全てを話し終えると、直ぐに寝息を立て始めた。
杉元「疲れたのかな？」
アシﾘパ「・・・もしかしたらカムイの声を聞いたのかも」
A『・・・・・・・』
アシﾘパ「慌てた様子で森に駆け込んで行ったと思ったらお前と帰ってきた」
アシﾘパが俺を見つめる。
アシﾘパ「なにか、聞いたか？」
A『・・・なにも』
俺は、嘘をついた。
ーー
夜中、すすり泣くような声が聞こえて目が覚めた。
泣いていたのは・・・アンケシさんだった。
寝ているとき、いつもひとりでに涙を流している気がする。
普段は笑顔を振りまいているけど・・・無理しているのだろう。
A『泣くなよ。アンケシさん』
「【ホルルﾙﾙﾙッ A。今夜だけは良い夢を見なさい】」
A『・・・・・・・ははッ。柄じゃ無ぇんだけどなぁ』
俺は小さな少女の腹をポンポンと叩きながら、口ずさんだ。
A『イテキ チｼノ モコﾛ モコﾛ』
泣かずにねんねしな。
A『ニｼパ エネ クニ カムイ エヌカﾗ
キ クスネ ナ』
立派な人になれるように神様みていて下さろう。
A『モコﾛ イテキ チｼノ モコﾛ モコﾛ』
ねんねん泣かずにねんねしな。
アンケシさんが寝返りをうつ。
そして、俺に抱きついてきた。
アンケシ「・・・へへ・・・アチャ」
A『・・・・・アンケシ』
アンケシ「・・・わたし・・・・は・・・・・信じてる・・・・よ」
俺はアンケシさんをそっと抱き寄せた。
A『きっとアチャも分かってるよ』
『ハポも故郷の仲間も・・・カムイも』
『俺も』
だから、どうか。もう泣かずに眠ってほしい。
悪夢なんて見る必要は無いんだから。
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作者名：白文鳥 | 作成日時：2020年12月13日 20時
