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コン、コン、コン。

このビルに事務所を構えてから今まで、こんな丁寧なノックがされたことがあっただろうか。
ロナルドが思わずそう考えるほど、事務所のドアを打ったそのノックは丁寧だった。いや、そもそもシンヨコにはノックをしてから事務所に入ってくるほど常識を持った人間もしくは吸血鬼あるいはダンピールはいない気がする。ある奴は勝手に入り、ある奴はドアをブチ破る。そもそもドアを介さない奴もいる。最後のは主に吸対。改めて考えるととんでもねぇな。
いやしかしまぁ、わざわざ事務所のドアをノックをしたからには依頼人なのだろう。今度はマトモな依頼だといいな、と思いながらロナルドは事務所のドアを開けた。

開けたドアの前に行儀よく立っていたのは、黒い長髪の美丈夫。彼はロナルドを視界に入れるや否や、にっこりと微笑んだ。細められた瞳は赤。なんだか見たことのあるカラーリングである。開かれた唇から、鋭い牙が覗いたのが見えた。

「はじめまして、退治人ロナルド。僕は吸血鬼のAという者でね。依頼ではなくて申し訳ないのだけど、友人のドラルクはいるかな?」

うわマトモ。あのドラ公のダチなのにめっちゃマトモ。明らかに俺が知ってる吸血鬼じゃない。いや本人が言ってるんだし吸血鬼なんだけど。
それがAと名乗った吸血鬼に対する、ロナルドの第一印象だった。色々と各方面に失礼だが、確かにロナルドの周りの吸血鬼はおポンチ野郎ばっかりなので、しょうがないところがあるかもしれない。

「あっどうもご丁寧に。でもドラ公、今ちょうど買い出しに行ったところで…」

そう。そのドラルクは今、夕飯にハヤシライス(弱いカレー)が食べたいと言ったロナルドのために買い出しに出向いているのだ。つい5分ほど前のことだったので、入れ違いになってしまったのだろう。
ロナルドが眉を下げてそう伝えると、Aは「まぁ、そんなこともあるか」と困ったように笑ってみせた。Aは綺麗な顔立ちをしている割りに、こうして笑うとちょっと幼く見えるようだ。こっちの笑顔の方が親しみやすくていいな、とは思う。

「ではまた後日訪ねよう。わざわざ出迎えてくれたのにすまないね」
「いや、こちらこそ無駄足にさせちゃって…」
「急に来た僕が悪いんだから気にしないでくれ。むしろ、依頼人でもないのに丁寧に応対してくれてありがとう」

ではまた会おう、とAがマントを翻すと、そこにはもう誰もいなかった。

(……なんだか不思議な人だったな)

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作者名:どるどる | 作成日時:2022年2月6日 22時

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