*Only winner* (ページ41)

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青白い肌、冷たい指先、痩せていく身体、浅い呼吸。
言い方は悪いが、もうすぐ空から迎えが来るんじゃないかって心配になる。

それぐらい、誰がどう見てもあの頃のAさんは明らかに調子が悪そうだった。

舞台裏、小さく蹲り、喉元に手を当てヒューヒューと苦しそうな音を立てながら呼吸をするAさん。
隣にはいつも樹が居て、その小さな背中に手を添えながら大丈夫、落ち着いて、ちゃんと息して、と繰り返し宥めていた。

こんな状態でツアーなんか回り切れるわけがない。絶対に無理だ。
側から見ていて、そうとしか思えなかった。

なのに、なのに。

「ステージ上がった瞬間、別人みたいにキラキラするんすよね」

さっきまで自力で立つことすら出来なかったはずの人が、樹の「出るよ」の一言でパッと立ち上がり、ステージの上へ飛び出していく。
ステージに上がった彼女は、直前までの苦しそうな様子を一切見せず、歌い、踊り、笑っている。

嘘だろ、と思った。
だって、ついさっきまで目の前で苦しげに蹲っていたのに。

「俺、幻覚見えてんのかなってなりましたよ」

『そんなに？』

大袈裟じゃない？とAさんは笑う。
でもこれに関しては、大袈裟じゃなく本気で信じられなすぎて、自分の目を疑った。

「大丈夫や海青、メンバーも流石に嘘やろと思ってたから」

『ふは、そうなんや』

「あれは思うて。あまりに裏での様子と違いすぎて影武者でも用意したんかと思ったわ」

『あっはは！そこまでかあ～』

龍友さんの言葉に大口を開けて笑うAさん。
最も近い存在のメンバーですらそう思うのだから、やっぱり当時のあれは相当凄くて、相当おかしかった。

そして、それだけ命を削ってステージに立っていたからこそ、美しかった。

全ての力を振り絞って、声を枯らしてまでも、全ての人へ届けと願うように歌う。

ああ、この人はステージの上でこそ息が出来る、生きていられる人なんだ、歌に命を捧げているのだと、その様をまざまざと見せつけられて胸が苦しくなった。

それと同時に、涙が出るほど感動した。

「あの時のAさんの姿を見て、アーティストであり続けるってこういうことなんやなって、感銘を受けました。
あの時からずっと、僕にとってAさんは、憧れの人です」

俺の一言に、Aさんは一瞬だけ複雑そうな顔をして、それから困ったような笑顔で「ありがとう」と言った。

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